「兄に全財産を相続させる」という遺言が出てきた——他の兄弟は何もできないのでしょうか? 答えは「遺留分侵害額請求」という強力な対抗手段があります。
制度の概要
遺留分は、遺言の自由と相続人の保護のバランスを取るための制度です。被相続人は遺言で財産配分を自由に決められますが、法定相続人(兄弟姉妹を除く)には最低限の取り分が保障されます。
2019年の民法改正により、金銭の支払い請求権(従来の現物返還請求から変更)に統一されました。これが「遺留分侵害額請求」です。
遺留分の割合
| 相続人 | 遺留分割合 |
|---|---|
| 直系尊属(親・祖父母)のみ | 法定相続分の 1/3 |
| 配偶者・子・代襲相続人を含む | 法定相続分の 1/2 |
| 兄弟姉妹 | 遺留分なし |
計算例
例1: 子3人で遺産6,000万円・遺言で長男に全部
- 各子の法定相続分: 6,000万 × 1/3 = 2,000万円
- 各子の遺留分: 2,000万 × 1/2 = 1,000万円
- 次男・三男は長男に対して各1,000万円の侵害額請求が可能
例2: 配偶者+子1人で遺産1億円・遺言で長男に全部
- 配偶者の法定相続分: 1/2 = 5,000万円
- 配偶者の遺留分: 5,000万 × 1/2 = 2,500万円
- 配偶者は長男に対して2,500万円の侵害額請求が可能
1年の消滅時効
民法1048条により以下のいずれか早い日で消滅:
- 相続開始および侵害を知った時から1年
- 相続開始から10年(除斥期間)
「1年」は驚くほど短く、葬儀・四十九日・初盆と過ごしているうちに過ぎてしまうケースが多発します。遺言を見て偏りを感じたら、即座に弁護士相談が鉄則です。
請求の進め方
1. 内容証明郵便で通知
時効中断のため、まず内容証明郵便で侵害額請求の意思表示を相手方に送付。これにより時効進行が止まります。
2. 任意交渉
当事者間で金額・支払期日を交渉。合意できれば書面化。
3. 調停
合意できなければ家庭裁判所の調停。
4. 訴訟
調停不成立で地方裁判所(or簡易裁判所)に訴訟提起。
計算の論点
実務でよく揉めるのは「遺留分算定の基礎財産」です。
民法1043条により以下を加算:
- 相続開始時の被相続人の財産
- 相続開始前1年以内の生前贈与
- 相続人に対する10年以内の特別受益
- 不当な意図ある贈与は期間関係なく算入
逆に債務は控除されます。生前贈与の評価・特別受益の認定で大きく金額が変動するため、弁護士・税理士の協力が不可欠です。
遺留分対策(被相続人側)
被相続人が偏った遺言を残す場合、遺留分対策として:
- 遺留分相当額を金銭で残す(請求された場合の支払原資確保)
- 生命保険を活用(生命保険は遺留分算定の基礎財産に原則含まれない)
- 遺留分の放棄(家裁許可で生前放棄も可能)
- 付言事項で意思を伝える(感情的紛争の予防)
まとめ
遺留分侵害額請求は、不公平な遺言から相続人の最低限の権利を守る制度です。1年という短い期限が最大のリスクで、知らないうちに失効するケースが多発します。
「兄に全部いった」「家業を継いだ姉だけに全財産」など偏った遺言が出てきたら、四十九日を待たずに弁護士相談してください。
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