親の死亡直後の72時間は、相続不動産の取扱において選択肢を最大限残せる最後のタイミングです。この期間を逃すと、相続放棄の検討時間が削られたり、口座凍結で固定資産税の支払いが滞ったり、必要書類の取得が遅れたりと、後で挽回できない不利を背負います。
ここでは、親を看取った直後から72時間以内に必ずやっておくべき7項目を、不動産業の現場で見てきた事例と一緒に整理します。
なぜ72時間が勝負なのか
相続が発生すると、以下のような時計が同時に動き始めます:
- 3か月以内:相続放棄・限定承認の家庭裁判所申述期限(民法915条1項)
- 4か月以内:被相続人の所得税準確定申告期限
- 10か月以内:相続税申告・納付期限
- 3年以内:相続不動産売却で取得費加算特例が使える期限(措置法39条、相続税申告期限の翌日から起算)
- 相続登記の義務化(2024年4月1日施行):相続を知った日から3年以内に登記申請が必要。施行日以前に開始した相続については、令和9年(2027年)3月31日が期限
一方で、預金口座の凍結は死亡が金融機関に知られた瞬間から始まります。葬儀費用・固定資産税・公共料金の自動引き落としが止まり、家族が立て替えるか、所定の払い戻し手続を踏むしかなくなります。
72時間以内に動くべきは、これらの「時計の進みを認識し、必要な情報・書類・選択肢を確保する」ための準備行動です。
1時間目:死亡診断書の原本コピーを最低5枚確保する
死亡診断書は原本が必要な手続きが多数あります。火葬許可申請、生命保険、銀行手続き、年金停止、相続手続きなど、原本またはその写し(コピー可の窓口もあれば原本必須の窓口もある)が複数必要になります。
葬儀社が複数枚コピーを取ってくれることが多いですが、自分でもA4サイズで最低5枚は確保しておきましょう。
12時間目:家系図メモをスマホに残す
相続人の確定には被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本が必要です。離婚歴・前妻の子・養子・認知の有無など、家族間でも知らない事実が出てくるケースが珍しくありません。
72時間以内に、わかる範囲で以下をメモしておきます:
- 被相続人の本籍地(戸籍取得に必要)
- 配偶者・子・孫・兄弟姉妹の有無
- 過去に居住していた市町村
- 把握している離婚歴・養子関係
実家の引出しにある古い戸籍謄本・除籍謄本は捨てずに保管してください。後の戸籍収集で時間短縮になります。
24時間目:実家の鍵と権利証(登記識別情報)の所在を確認
実家の鍵を家族の誰が持っているかを整理します。複数の鍵が出てくることが多く、紛失や別人が持っている事態を防ぎます。
権利証(古い物件は「登記済証」、2005年以降は「登記識別情報」)は、相続登記や売却時に必要です。箪笥の引出し・金庫・書斎の机の中に保管されているケースが大半です。見つからない場合でも、法務局で登記事項証明書を取得すれば代替できます。
固定資産税の納税通知書(毎年4〜5月に郵送)も、所有不動産の一覧把握に役立つので必ず確保します。
36時間目:固定資産税の納税通知書から所有物件を全リストアップ
被相続人が所有していた不動産を全部洗い出す作業が、最も時間がかかる場所のひとつです。実家以外にも、駐車場・畑・山林・他県の不動産など、本人しか把握していない物件が出てくることがあります。
確認方法:
- 固定資産税納税通知書(市区町村ごと)を集める
- 各市区町村役場で**名寄帳(固定資産課税台帳の写し)**を取得(被相続人名義の全物件が記載される)
- 共有物件は単独所有と扱いが異なるため要注意
48時間目:相続放棄・限定承認の判断材料を集める
実家以外に借金・連帯保証がないかを確認します。相続放棄の3か月期限は短く、調査が遅れると間に合わなくなります。
確認すべき項目:
- 通帳の支払履歴(消費者金融・カードローン)
- 信用情報機関への開示請求(CIC・JICC・KSC)
- 連帯保証契約書の有無(実家の引出し・金庫)
- 事業を営んでいた場合は税理士・取引銀行へ確認
借金が大きい場合や、実家の老朽化が著しく売却益で残債を返せない場合は、相続放棄の選択肢が現実的です。「3か月伸長」の家庭裁判所申立てを早めに検討してください。
60時間目:相続不動産の概算評価を業者2〜3社に出してもらう
実家を売却する場合の概算金額感を早期に把握します。机上査定(実物確認なしの数字ベース査定)は無料で複数社から取れます。
このタイミングで把握すべき:
- 路線価ベースの相続税評価額
- 実勢価格の概算(机上査定)
- 築年数・接道状況・再建築可否
- リフォーム/解体の概算費用
机上査定だけでもこの段階の判断材料には十分です。訪問査定は急がず、相続人全員の意向が固まってからで構いません。
72時間目:相続人全員でLINEグループを作り、情報共有のルールを決める
相続トラブルの多くは「情報の非対称」と「言った言わない」から生じます。相続人全員が入るLINEグループまたはメーリングリストを72時間以内に作り、以下のルールを共有します:
- 重要な合意は文章で残す
- 出費は領収書を写真で共有
- 個別の士業相談は結果を全員に共有
- 重要決定は全員が確認した上で進める
合意なく一人で進めると、後の遺産分割協議で蒸し返されます。逆に、全員が見える場所で合意形成すれば、揉めるリスクは大きく下がります。
避けたほうがよい3つのこと
72時間以内に慎重に避けたほうがよい行動も整理しておきます。
1. 親の預金から「葬儀費用」と銘打って大きく引き出す
引出し金額や用途によっては「単純承認とみなされる行為」(民法921条1号)に該当する恐れがあります。単純承認とみなされると、後から相続放棄ができなくなります。葬儀費用そのものは判例上認められやすいですが、過度な金額や使途不明分はリスクです。
2. 高額な遺品・骨董・自動車を譲渡する・処分する
これも単純承認とみなされる行為に該当する恐れがあります。現状維持で72時間を乗り切ってください。
3. 不動産を即決で売る業者と契約してしまう
訪問営業で即現金化を提案してくる買取業者があります。買取は仲介売却に比べて価格が低くなる傾向があり、即決契約は判断材料が不足しがちです。72時間以内に契約する必要はありません。落ち着いてから複数業者の比較・査定取得が十分可能です。
まとめ:72時間チェックリスト
| 時間 | やること |
|---|---|
| 1h | 死亡診断書のコピーを5枚以上確保 |
| 12h | 家系図メモ・本籍地確認 |
| 24h | 鍵・権利証・固定資産税通知書の所在確認 |
| 36h | 名寄帳取得計画・所有不動産の全リスト化 |
| 48h | 借金・連帯保証の調査開始 |
| 60h | 机上査定を複数社へ依頼 |
| 72h | 相続人全員のLINEグループ作成・ルール共有 |
72時間で「情報を握る」ことができれば、3か月の相続放棄判断・10か月の相続税申告・3年の売却特例期限という長い時計と冷静に向き合えます。
逆に、ここで初動を誤ると、選択肢がどんどん狭まります。現場で見てきた失敗の多くは、最初の数日の判断ミスです。
迷ったら、相続人全員で立ち止まって、士業(弁護士・税理士・司法書士)に相談することをおすすめします。当社でも初回相談をお受けしていますので、お気軽にお問い合わせフォームからご連絡ください。