限定承認の使い所:相続放棄では損をするケースとみなし譲渡課税の罠

相続放棄ではなく限定承認が有利なケースとは。手続きの厳格さ・みなし譲渡課税・相続人全員での共同申述など実務の落とし穴を解説します。

相続には単純承認・限定承認・相続放棄の3つの選択肢がありますが、多くの方は単純承認(放置)か相続放棄しか知りません。一方で、限定承認は特定の状況で最も有利になるケースがあります。

ただし、限定承認は手続きが複雑でみなし譲渡課税という大きな落とし穴があります。

限定承認のメリット

1. プラス財産を残せる

相続放棄だと自宅も含めて全財産を失います。限定承認なら、債務を清算した後に残るプラス財産は相続人が取得できます。

2. 思い入れのある不動産を守れる

被相続人が持っていた自宅・先祖代々の土地など、債務超過でも手放したくない物件を先買権の行使(民法932条)で取り戻せます。

3. 債務の全容が不明な場合のリスクヘッジ

「借金があるかもしれないが、調べきれない」というケースで、プラス財産の範囲内に債務責任を限定できます。

厳格な要件

全相続人の共同申述が必須

1人でも反対すれば限定承認はできません。実務上、相続人間の合意形成が最大のハードルです。

3か月の熟慮期間

相続放棄と同じく3か月以内の家裁申述が必要(民法915条1項)。

財産目録の作成

全財産・全債務の目録を作成して家裁に提出。網羅性が問われます。

公告・催告

限定承認の申述後、5日以内に債権者・受遺者に対する公告・催告が必要(民法927条)。

最大の落とし穴:みなし譲渡課税

限定承認が回避されがちな最大の理由がこれです。

所得税法59条1項は、限定承認による相続を被相続人から相続人への時価譲渡とみなします。つまり:

  • 被相続人が安く取得していた不動産が値上がりしている場合
  • 値上がり益(含み益)に対して譲渡所得税が課税される
  • この税金は被相続人の所得として準確定申告が必要

具体例:

  • 被相続人が3,000万円で買った土地が現在7,000万円の評価
  • 限定承認した瞬間に4,000万円の譲渡益が発生したものとみなされる
  • 譲渡所得税(長期20.315%)で約813万円の税負担

これを知らずに限定承認すると、後日の準確定申告で大きな税負担に直面します。

どんな時に有利か

限定承認が有利なケース

  • プラス財産がマイナス財産を確実に上回るが、債務全容が不明
  • 思い入れのある不動産を先買権で残したい
  • 値上がり益が小さい(または含み損)財産が中心
  • 相続人全員の合意形成が可能

相続放棄の方が有利なケース

  • 明らかに債務超過
  • 含み益の大きい不動産がある(みなし譲渡課税が重い)
  • 相続人間で意見が割れている

単純承認が有利なケース

  • 明らかにプラス
  • 財産・債務とも把握済み

進め方

  1. 3か月以内に財産・債務の概算把握
  2. みなし譲渡課税のシミュレーション(税理士)
  3. 全相続人の合意形成
  4. 家裁に限定承認申述
  5. 5日以内に公告・催告
  6. 債権者への配当
  7. 残余財産があれば取得・登記

まとめ

限定承認は知名度が低く、相続放棄と比べて使われない制度ですが、特定の状況で最大限の経済的利益をもたらします。一方で、みなし譲渡課税という重大な税負担を伴うため、税理士・弁護士のシミュレーション抜きでの判断は危険です。

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よくある質問

限定承認とは何ですか?
相続によって得たプラスの財産の限度においてのみ、被相続人の債務を弁済する制度です(民法922条)。借金があっても自宅は残したい等のケースで検討されます。
相続放棄とどう違いますか?
相続放棄は財産を一切受け取らない代わりに債務も負わない制度。限定承認はプラス財産を受け取り、その範囲で債務を支払う制度です。プラスが残れば取得できる点が大きな違いです。
相続人全員で申述する必要がありますか?
はい。限定承認は相続人全員の共同申述が必要です(民法923条)。1人でも反対する相続人がいると限定承認はできず、放棄か単純承認しか選べません。
みなし譲渡課税とは何ですか?
限定承認の場合、被相続人から相続人に資産を時価で譲渡したものとみなされ、被相続人に譲渡所得税が課されます(所得税法59条)。準確定申告で被相続人の所得として税金を支払う必要があり、これが限定承認の最大の落とし穴です。

出典・参考