家族信託で実家の凍結を防ぐ|認知症で不動産が売れなくなる前の備え

認知症で実家が売れなくなる「資産凍結」を防ぐ家族信託を、業界24年のコンサルタントが解説。委託者・受託者・受益者の役割、成年後見制度との違い、公正証書での作り方と手順、相談のタイミングまで、元気なうちにできる生前準備をやさしく整理します(2026年5月現在)。

この記事でわかること

  • 認知症などで判断能力が下がると、本人名義の実家が売れなくなる「資産凍結」がなぜ起きるのか
  • 家族信託(かぞくしんたく)とは何か、元気なうちに結ばなければならない理由
  • 委託者・受託者・受益者という3つの役割と、「親=委託者兼受益者/子=受託者」という典型パターン
  • 成年後見制度(せいねんこうけんせいど)との違いと、不動産を売りやすいのはどちらか
  • 家族信託を始めるための具体的な手順と、専門家に相談するタイミング

結論を先にお伝えします。 家族信託とは、実家などの財産の管理や売却を、信頼できる家族にあらかじめ任せておく契約です。認知症で「凍結」する前、つまり親が元気なうちにしか結べないため、早く備えるほど将来の選択肢が広がります。


私はミヤオ ヒロキと申します。不動産コンサルタントとして24年、相続や空き家のご相談に向き合ってきました。

先月、ご相談者様から実際にこんなお話を受けました。70代のお母様と同居する50代の娘さんからのご相談です。「母を施設に入れることになり、空いた実家を売って施設の費用にあてたい。でも母は最近もの忘れが進んで、契約の話が理解できない。不動産屋さんに相談したら『お母様ご本人でないと売れません』と言われてしまった」――。

これがまさに、本人名義の不動産が動かせなくなる「資産凍結」です。もし1〜2年前、お母様がお元気なうちに家族信託を結んでいれば、娘さんの判断で実家を売り、その代金を施設費用に使うことができました。今回は間に合わず、成年後見制度を使うことになり、売却までに時間と手間がかかってしまいました。

このコラムでは、同じ後悔をしないために、元気な今だからこそできる備えをお伝えします。

なぜ実家が「凍結」して売れなくなるのか?

不動産の売買契約は、その物件の持ち主(名義人)本人が「売ります」と意思表示をして初めて成立します。これは、本人の財産を本人の意思なく動かされないようにするための、とても大切なルールです。

ところが、認知症などで判断能力(物事を理解し決める力)が大きく下がると、本人は契約の意味を理解できなくなります。そうなると、たとえ家族であっても、勝手に実家を売ったり貸したりすることはできません。預金の引き出しや定期預金の解約も同じように制限されます。これが「資産凍結」と呼ばれる状態です。

Q: 子どもが親の代わりにサインすればよいのでは? A: できません。 親本人の意思がない契約は無効になります。子が親になりすまして署名するのは私文書偽造にあたり、犯罪です。家族だからという理由で代わりに売ることは認められていません。

厚生労働省は、高齢化にともない認知症のある方が今後さらに増えると見込んでいます(2026年5月現在)。「うちはまだ大丈夫」と思っているうちに、ある日突然動けなくなる――それが資産凍結の怖いところです。

家族信託とは? 元気なうちにしか結べない契約

家族信託とは、自分の財産の管理や処分(売却・賃貸など)を、信頼できる家族に託しておく契約です。「信託」は文字どおり「信じて、託す」という意味です。

ポイントは、契約を結べるのは本人に判断能力があるうちだけということです。認知症が進んで判断能力を失ってからでは、契約そのものが結べません。だからこそ「元気な今」が唯一のタイミングになります。

登場する3つの役割

家族信託には、次の3人の役割があります。1人が複数の役割を兼ねることもできます。

役割読み方意味典型例
委託者いたくしゃ財産を託す人(もとの持ち主)
受託者じゅたくしゃ財産を預かって管理・処分する人
受益者じゅえきしゃその財産から利益を受け取る人

いちばん多いのが、親が「委託者」と「受益者」を兼ね、子が「受託者」になるパターンです。

たとえば実家を信託すると、名義の管理は子(受託者)に移りますが、実家を売ったお金や家賃などの利益は親(受益者)のものです。つまり、財産の所有から得られる利益は親のまま、管理する手だけを子に渡す形になります。これなら、親が認知症になっても、子の判断で実家を売って施設費用にあてることができます。

なお、親(委託者)と受益者が同じ場合、信託を結んだ時点では原則として贈与税はかからないと考えられています。ただし、受益者を子などに設定すると贈与税の対象になる場合があり、税の扱いはケースで変わります。必ず税理士など専門家に確認してください(2026年5月現在)。

成年後見制度とどう違う? 不動産を売りやすいのはどっち

判断能力が下がった人を支える制度として、もう一つ「成年後見制度」があります。これは、家庭裁判所が選んだ後見人(こうけんにん)が、本人に代わって財産を管理する制度です。

両者の違いを整理します。

比較項目家族信託成年後見制度
始められる時期本人が元気なうち(事前)判断能力が下がった後(事後)
管理する人信頼する家族(自分で選べる)家庭裁判所が選任(家族以外になることも)
不動産の売却契約で決めた範囲で柔軟に行える居住用不動産の売却は家庭裁判所の許可が必要
目的本人の生活費+資産の活用・承継原則として本人の財産の保護

最大の違いは、家族信託は「資産を活かす」ことを前提にできる点です。成年後見制度は本人の財産を守ることが第一の目的なので、積極的な売却や運用は制限されやすく、特に本人が住んでいた家の売却には家庭裁判所の許可が要ります。

一方で、家族信託は「実家を売って施設費用にあてる」「賃貸に出して家賃収入を得る」といった活用を、あらかじめ契約に書いておけます。柔軟に不動産を動かしたいなら家族信託が向いているのです。

ただし、家族信託は財産の管理に特化した仕組みで、入院や介護の手続き(身上監護=しんじょうかんご)まではカバーしません。状況によっては成年後見制度との併用が適していることもあります。どちらが合うかは、家族構成や財産の中身で変わります。

家族信託を始める手順は?

家族信託は、次のような流れで進めます。手順を番号で示します。

  1. 家族で話し合う … 誰の、どの財産を、誰に託すのかを話し合います。実家、預金、収益物件など対象を決めます。
  2. 専門家に相談する … 信託に詳しい司法書士や弁護士に相談し、家族の希望に合う設計を一緒に考えます。
  3. 信託契約書をつくる … 「いつ・どの財産を・どう管理し・誰のために使うか」を契約書にまとめます。
  4. 公正証書にする … 信託契約書は、公証役場で「公正証書」にして作るのが一般的です。公正証書とは、公証人という法律の専門家が内容を確認して作る公的な書面で、後々のトラブルや無効リスクを減らせます。
  5. 名義変更と専用口座をつくる … 不動産は信託の登記(名義の手続き)を行い、お金は信託専用の口座を用意して、親個人のお金と分けて管理します。

このうち、契約書づくりと公正証書の作成は専門家の関与が前提です。家族信託は自由度が高いぶん、設計を誤ると「結んだのに肝心の売却ができない」といった事態にもなりかねません。司法書士・弁護士に依頼するのが安心です。

私たちROCKEDGEでは、生前の段階から実家の査定や将来の売却の見通しづくりをお手伝いし、信託に詳しい司法書士や税理士とも連携しています。「信託に実家を入れる前に、いくらで売れそうか知っておきたい」といった中立的なご相談も承っています。特定の手法を押し売りすることはありませんので、まず現状を整理したいという段階でもお気軽にご利用ください。

早く動くほど、家族はもめず・選択肢が増える

家族信託の最大の価値は、親が元気なうちにしか結べないことに尽きます。判断能力を失ってからでは、もう契約はできません。

早めに備えておくと、次のような前向きな効果が期待できます。

  • 実家の凍結を防げる … いざというとき、子の判断で売却や賃貸ができる
  • 空き家化を防げる … 親が施設に入っても、家を放置せず活用できる
  • 家族がもめにくい … 誰が何をするか元気なうちに話し合えるため、後の争いを減らせる
  • 税金の対策を検討する時間ができる … 早いほど、専門家と一緒に選べる手段が多い

逆に、動き出すのが遅れるほど選択肢は減っていきます。「まだ元気だから」という今こそが、いちばん備えやすいタイミングなのです。

なお、家族信託・成年後見・生前贈与などのうち、どれがご家庭に合うかは、家族構成・財産の種類・健康状態によって大きく変わります。個別の事情により異なるため、詳細は司法書士・弁護士・税理士などの専門家へご相談ください。 このコラムは制度の全体像をやさしくお伝えするもので、特定の手法の効果や結果を保証するものではありません。


相続のお悩みはROCKEDGEの無料相談へ

ROCKEDGEでは相続に関するご相談を承っています。「何から手をつければいいか分からない」という段階からお気軽にご連絡ください。業界24年の経験で、あなたの状況に合った選択肢を中立的な立場でご提案します。

対応エリア: 東京・埼玉・神奈川・千葉(1都3県)

無料相談はこちら → お問い合わせフォーム

よくある質問

親が認知症と診断された後でも、家族信託は結べますか?
判断能力がどの程度残っているかによります。契約の意味を理解できる状態であれば結べる可能性がありますが、症状が進んで理解が難しい場合は結べません。家族信託は元気なうちが原則です。診断後に検討する場合は、早めに司法書士・弁護士へご相談ください(2026年5月現在)。
受託者になった子は、実家を自由に売って自分のお金にできるのですか?
できません。受託者はあくまで管理・処分を任されただけで、売却代金などの利益は受益者(多くは親)のものです。受託者は契約で決められた目的に沿って財産を扱う義務があり、自分のために使うことは認められていません。
家族信託にすると固定資産税や管理の手間は誰が負担しますか?
信託した不動産の固定資産税などの負担は、契約の内容によりますが、実質的には受益者(親)の財産から支払うのが一般的です。実務上の納税通知は受託者宛てに届く形になることが多いため、設計時に専門家と取り扱いを確認しておくと安心です。
成年後見制度と家族信託は両方使えますか?
併用できる場合があります。家族信託は財産の管理・処分に特化した仕組みで、入院や介護施設の契約といった身上監護はカバーしません。財産は信託で柔軟に、身の回りの手続きは後見で、と役割を分けて併用する設計も検討できます。
信託契約書は自分たちだけで作ってはいけませんか?
法律上は当事者で作ることも可能ですが、おすすめしません。設計を誤ると肝心の売却ができないなど、目的を果たせない契約になる恐れがあります。公正証書で作成し、司法書士や弁護士の関与のもとで進めるのが一般的で安全です。

出典・参考

関連記事

任意後見と成年後見の違い|認知症に備える後見制度の選び方

任意後見と成年後見の違い|認知症に備える後見制度の選び方

任意後見と法定後見の違いを、相続に備えたい方向けにやさしく解説。元気なうちに選べる任意後見、家裁が選ぶ法定後見、家族信託を表で比較。後見人がついた実家の売却には家庭裁判所の許可(民法859条の3)が必要な点も実務目線で紹介します(2026年5月現在)。

エンディングノートと遺言書はどう違う?法的効力と書くべき内容を整理

エンディングノートと遺言書はどう違う?法的効力と書くべき内容を整理

エンディングノートに法的効力はなく、財産の分け方を確実に残すには遺言書が必要です。自筆証書遺言書保管制度(2020年7月10日開始)や検認、相続税申告期限10か月など、生前準備の使い分けと注意点を不動産コンサルタントが整理します。

もめない相続のための家族会議の進め方|生前に話し合うべき5つのこと

もめない相続のための家族会議の進め方|生前に話し合うべき5つのこと

もめない相続は親が元気なうちの家族会議が鍵。生前に話し合うべき5つのこと(財産・分け方・実家・介護・葬儀)、言い出すきっかけ、中立の専門家を入れる効果、遺言書とエンディングノートでの残し方を不動産コンサルタントが解説します。

生命保険を使った相続対策|非課税枠500万円×法定相続人の活用法

生命保険を使った相続対策|非課税枠500万円×法定相続人の活用法

生命保険の死亡保険金は「500万円×法定相続人の数」まで非課税(相続税法12条)。受取人固有の財産で早く現金化でき、相続税の納税資金や代償分割の原資にも。契約形態で税目が変わる注意点まで、業界24年の視点でやさしく解説します(2026年5月現在)。

LINEで相談