任意後見と成年後見の違い|認知症に備える後見制度の選び方

任意後見と法定後見の違いを、相続に備えたい方向けにやさしく解説。元気なうちに選べる任意後見、家裁が選ぶ法定後見、家族信託を表で比較。後見人がついた実家の売却には家庭裁判所の許可(民法859条の3)が必要な点も実務目線で紹介します(2026年5月現在)。

この記事でわかること

  • 「成年後見制度」には法定後見任意後見の2種類があり、何が違うのか
  • 元気なうちに自分で備えられる「任意後見」と、判断能力が下がってから始まる「法定後見」の選び方
  • 認知症で実家が「凍結」して売れなくなる仕組みと、その前にできる対策
  • 後見人がついた家を売るとき、なぜ家庭裁判所の許可が必要になるのか
  • 任意後見・法定後見・家族信託を表で比べ、自分や親に合うのはどれか判断する考え方

任意後見と法定後見の一番の違いは「本人が元気なうちに自分で決められるか、判断能力が下がった後で家庭裁判所が決めるか」です。認知症に備えるなら、本人の希望を反映できる任意後見や家族信託を、元気な今のうちに検討しておくことが大切です。

先月、70代のお母様と一緒に来られた50代の女性からこんなご相談を受けました。「母が最近もの忘れが増えてきた。実家を将来売って施設の費用にあてたいけれど、今のうちに何をしておけばいいの?」というものです。お母様はまだしっかりお話しできる状態でしたが、まさにこの「元気な今」が分かれ道でした。判断能力が下がってからでは選べる方法がぐっと減ってしまうからです。業界24年の経験から言えるのは、後見制度は「困ってから調べる人」が圧倒的に多く、その時には選択肢が限られているということです。


そもそも成年後見制度とは?認知症と財産の関係

成年後見制度とは、認知症・知的障害・精神障害などで判断能力が十分でなくなった人に代わって、財産の管理や契約を支援する人(後見人)をつける仕組みです。

なぜこの制度が必要かというと、認知症が進むと銀行や不動産の手続きが本人の意思では進められなくなるからです。たとえば、

  • 定期預金を解約しようとしても本人確認ができず、銀行が応じてくれない
  • 実家を売ろうとしても、本人が契約内容を理解できないため売買契約ができない
  • 高額なリフォーム契約や保険の見直しができない

このように、本人名義の財産が事実上「凍結」してしまうのです。「家族なんだから代わりにやればいい」と思われがちですが、たとえ子どもでも、本人の判断能力が失われた後に勝手に親の不動産を売ることはできません。ここで登場するのが成年後見制度です。

そして、この制度は大きく分けて法定後見任意後見の2つに分かれます。


任意後見とは?元気なうちに自分で決めておく制度

任意後見とは、本人がまだ判断能力がしっかりしているうちに、「将来、自分の判断能力が下がったら、この人に、こういう内容で支援してほしい」とあらかじめ契約で決めておく制度です。根拠となるのは「任意後見契約に関する法律」(2000年4月1日施行)です。

ポイントは次の3つです。

  1. 誰に頼むかを自分で選べる:信頼できる子ども・親族・専門家などを、自分の意思で後見人(任意後見人)に指定できます。
  2. 支援の内容も自分で決められる:「実家を売って施設費にあてる」「この預金はこう使う」といった希望を契約に盛り込めます。
  3. 契約は公正証書で作る:任意後見契約は必ず公証役場で公正証書として作成します(同法第3条)。口約束やメモではダメ、という点に注意してください。

ただし、契約した瞬間から効力が出るわけではありません。実際に本人の判断能力が下がってきたとき、家庭裁判所が「任意後見監督人(後見人がきちんと仕事をしているか見張る人)」を選任して、はじめて任意後見がスタートします(同法第4条)。この監督人がつくことで、家族であっても勝手な使い込みができない仕組みになっています。

Q: 任意後見は健康なうちでないと結べないの? A: はい。任意後見契約は本人が判断能力を持っている状態で結ぶ必要があります。認知症が進んでからでは契約自体ができなくなるため、「まだ大丈夫」と思える今こそが準備のタイミングです。


法定後見とは?判断能力が下がった後に家庭裁判所が選ぶ

一方、法定後見は、すでに判断能力が低下した後に、家族などが家庭裁判所に申し立てて、裁判所が後見人を選ぶ制度です。本人の状態に応じて「後見・保佐・補助」の3つの段階に分かれます。

任意後見との大きな違いは、後見人を自分では選べないことです。家族が「この人に」と希望しても、最終的に決めるのは家庭裁判所です。財産が多いケースや親族間で意見が割れているケースでは、弁護士・司法書士などの専門家が選ばれることもあり、その場合は毎月の報酬(目安として数万円程度。財産額により変動)が継続的にかかります。

「親がもう認知症になってしまった」という段階では、残念ながらこの法定後見を使うしかありません。だからこそ、本人の意思を反映できる任意後見は「元気なうち限定」の貴重な選択肢なのです。


任意後見・法定後見・家族信託の違いを表で整理

認知症の備えとしてよく比較されるのが、任意後見・法定後見・家族信託(家族に財産管理を託す契約)の3つです。違いを整理します(2026年5月現在)。

比較項目任意後見法定後見家族信託
始めるタイミング元気なうち判断能力低下後元気なうち
支援者を選べるか自分で選べる家庭裁判所が決定自分で選べる
本人の希望反映しやすい反映されにくいしやすい
監督する人任意後見監督人(家裁が選任)家庭裁判所原則なし(任意で設定可)
居住用不動産の売却家裁の許可が必要家裁の許可が必要信託契約の範囲で柔軟に対応可
おもな目的財産管理+身上保護財産管理+身上保護財産の管理・承継

ざっくり言うと、身の回りの世話(施設の契約など)まで含めて任せたいなら後見制度不動産など特定の財産を柔軟に管理・承継させたいなら家族信託が向いています。両方を組み合わせる方もいます。どれが最適かは家族構成や財産の中身で変わるため、専門家への確認が欠かせません。


後見人がついた実家を売るには家庭裁判所の許可が必要

ここが不動産に関わる最重要ポイントです。後見人がついた後、本人が住んでいる(または住んでいた)居住用不動産を売却・賃貸・取り壊しするには、家庭裁判所の許可が必要です(民法第859条の3)。

なぜこんな決まりがあるかというと、住み慣れた家を失うことは本人の生活や心に大きな影響を与えるため、後見人の一存で勝手に売れないようブレーキをかけているのです。許可なく売った場合、その売買契約は無効になるおそれがあります。

実務では、

  1. 売却の必要性(施設費用の確保など)を裁判所に説明する
  2. 適正な価格であることを示す資料(査定書など)を用意する
  3. 許可が下りてから売買契約を結ぶ

という流れになり、通常の売却より時間と手間がかかります。だからこそ、認知症が進む前の元気な段階で「家をどうするか」の方針を決めておくことが、ご家族の負担を大きく減らします。

私たちROCKEDGEでは、こうした「まだ売ると決めていないけれど、将来に備えて今の価値を知っておきたい」という生前の段階から、中立的な立場で査定を行い、必要に応じて税理士・司法書士とも連携してご相談に伴走しています。後見や信託の制度設計そのものは専門家の領域ですが、「この家を将来どう活かすか」という不動産の出口は、早く相談しておくほど選択肢が広がります。


認知症に備えるなら、何から始める?具体的な3ステップ

最後に、「次の一歩」を持ち帰っていただくための具体的な手順です。

  1. 家族で財産を棚卸しする:預貯金・不動産・保険などをリスト化し、「実家は将来どうするか」を本人の希望を聞きながら話し合います。
  2. 方針に合う制度を選ぶ:本人の意思を反映したいなら任意後見や家族信託を、すでに判断能力が下がっているなら法定後見を検討します。判断に迷う段階で専門家に相談しておくと安心です。
  3. 元気なうちに手続きを始める:任意後見なら公証役場で公正証書を作成、家族信託なら信託契約書を作成します。同時に、不動産については現状の査定を取っておくと、将来の判断がスムーズです。

繰り返しになりますが、これらの制度は要件や注意点が細かく、家族の状況によって最適解が変わります。早く動くほど選択肢が多く、家族ももめにくく、結果として税金や費用も抑えやすくなります。「まだ元気だから」と先延ばしにせず、今日が一番若い日だと考えて、まずは家族で話し合うことから始めてみてください。なお、本記事は一般的な制度の解説であり、個別の事情により最適な方法は異なります。詳細は司法書士・税理士・弁護士などの専門家へご相談ください。


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よくある質問

任意後見と法定後見、認知症対策にはどちらが向いていますか?
本人が元気なうちに準備するなら、誰に何を任せるかを自分で決められる任意後見が向いています。すでに判断能力が低下している場合は、家庭裁判所が後見人を選ぶ法定後見を使うしかありません。本人の意思を反映したいなら、元気なうちの任意後見や家族信託の検討が選択肢になります。
任意後見契約はどこで、どうやって結ぶのですか?
公証役場で公証人が作成する「公正証書」によって結びます(任意後見契約に関する法律第3条)。本人と任意後見人になる人が公証役場に出向いて契約します。契約後すぐ効力が出るのではなく、判断能力が下がったときに家庭裁判所が任意後見監督人を選任して初めてスタートします。
後見人がついた親の家を売るには、必ず家庭裁判所の許可が要りますか?
本人が居住している、または居住していた居住用不動産を売却・賃貸・取り壊しする場合は、家庭裁判所の許可が必要です(民法第859条の3)。許可なく売却すると契約が無効になるおそれがあります。許可には必要性や価格の妥当性を示す資料が求められ、通常の売却より時間がかかります。
家族信託があれば、後見制度はもう必要ありませんか?
目的が異なるため、必ずしも一方だけで足りるとは限りません。家族信託は不動産などの財産管理・承継に強い一方、施設の入所契約といった身の回りの手続き(身上保護)は後見制度の役割です。財産は信託、身上保護は任意後見、と組み合わせる方もいます。家族構成や財産内容に応じて専門家に相談するのが安心です。
親がすでに認知症気味ですが、今からでも任意後見は使えますか?
任意後見契約は本人に契約を理解する判断能力が残っていることが前提のため、認知症が進んだ後では結べないことがあります。その場合は法定後見の検討になります。判断能力があるかどうかの見極めは難しいので、迷ったら早めに専門家へ相談してください。

出典・参考

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