この記事でわかること
- 2020年7月10日に始まった「自筆証書遺言書保管制度」の中身と、自宅で保管する場合との違い
- 法務局に預けると、紛失・改ざん・隠されるリスクをどう防げるのか
- 預けた遺言書は、家庭裁判所の「検認(けんにん)」がいらなくなるという大きなメリット
- 申請にかかる費用(1通3,900円)と、本人が法務局へ出向く必要があるという手間
- 「自宅保管」「保管制度」「公正証書遺言」の3つを、費用と確実性で比べてどう選ぶか
結論:費用を抑えて遺言を安全に残したいなら、まず検討したい制度です
自筆証書遺言書保管制度とは、自分で書いた遺言書を法務局が預かってくれる制度です(2020年7月開始)。1通3,900円で紛失や改ざんを防げ、家庭裁判所の検認も不要になります。元気な今だからこそ動ける、生前準備の有力な選択肢です。
先月、70代のお母さまと一緒にご相談に来られた娘さんから、こんな声を伺いました。「母が遺言を書いてくれたのですが、仏壇の引き出しに入れたまま。これ、私が勝手に開けていいのか分からなくて……兄ともめないか心配です」。お母さまは「公証役場は敷居が高い気がして」と迷っておられました。お話を整理して、まさにこの保管制度をご案内したところ、「これなら自分で書いた遺言を、安心して国に預けられる」と表情がやわらいだのを今でも覚えています。
亡くなってからでは、遺言は書けません。書き直しもできません。だからこそ「元気なうち」に手を打っておくと、選択肢が多く、ご家族がもめにくく、結果として税金や手間も抑えやすくなります。この記事では、業界24年の不動産コンサルタントの視点から、制度の仕組みと具体的な手順を、やさしい言葉で整理します。
自筆証書遺言書保管制度とは?自宅保管との違い
「自筆証書遺言(じひつしょうしょゆいごん)」とは、本人が手書きで作る遺言書のことです。費用がほとんどかからず、思い立った日に書けるのが長所です。ただし、これまでは「自宅に置いておくしかない」点が大きな弱点でした。
自宅保管には、次のようなリスクがあります。
- 紛失:どこにしまったか分からなくなる、家族が見つけられない
- 改ざん(かいざん):内容を書きかえられてしまう
- 隠匿(いんとく):誰かが見つけて、こっそり隠してしまう
- 無効になる:形式の不備(日付がない・署名押印がないなど)に気づかないまま残ってしまう
2020年7月10日に始まった保管制度は、こうした不安に応えるものです。根拠となるのは「法務局における遺言書の保管等に関する法律」です。法務局(遺言書を預かる窓口を「遺言書保管所」と呼びます)が、自分で書いた遺言書の原本を預かり、画像データとしても保存してくれます。
申請のとき、職員が日付・署名・押印といった形式面のチェックもしてくれます。ただし、ここで注意したいのは、職員が確認するのはあくまで「形式が整っているか」だけということ。「その内容で家族が円満に分けられるか」「税金面で損をしないか」といった中身の良し悪しまでは見てくれません。中身の相談は、別途専門家に確認しておくと安心です。
検認が不要になるとは?遺された家族の手間が減る
保管制度の大きなメリットが、家庭裁判所の「検認」が不要になることです。
検認とは、遺言書の存在と形(状態)を家庭裁判所が確認する手続きのことです。自宅で保管していた自筆証書遺言は、開封する前に、この検認を受ける必要があります。相続人全員に連絡が行き、申立てから完了まで1〜2か月ほどかかることも珍しくありません。亡くなって悲しみのなかにいるご家族にとって、これは小さくない負担です。
法務局に預けた遺言書なら、この検認が要りません。相続が起きたあと、ご家族は法務局で「遺言書情報証明書」を受け取れば、すぐに相続の手続き(不動産の名義変更や預金の引き出しなど)に進めます。
Q:自宅保管の遺言書は、見つけたらすぐ開けてもいいですか? A:開けないでください。検認を受ける前に勝手に開封すると、過料(罰金のようなもの)の対象になることがあります。一方、保管制度を使った遺言書は法務局が管理しているため、この心配がありません。
「自分が遺すもので、家族を裁判所通いさせたくない」——そう考える方にとって、検認不要は大きな安心材料になります。
申請の手順と費用は?本人が法務局へ行く必要があります
ここからは、実際の流れを番号付きで見ていきましょう。
- 遺言書を自分で書く:全文・日付・氏名を手書きし、押印します(財産目録はパソコン作成や通帳コピーも可。ただし各ページに署名押印が必要)。
- 保管する法務局を決める:預け先は、①住所地、②本籍地、③所有する不動産の所在地、のいずれかを管轄する遺言書保管所から選びます。
- 申請書を準備する:法務省のサイトから様式をダウンロードして記入します。
- 予約する:手続きは予約制です。電話や専用サイトで日時を取ります。
- 本人が法務局へ行く:ここが重要で、必ず遺言者本人が出向く必要があります。代理や郵送はできません。本人確認のため、顔写真付きの身分証明書を持参します。
- 手数料を納める:保管の申請は1通につき3,900円です(収入印紙で納付)。
- 保管証を受け取る:手続き後、保管番号などが書かれた「保管証」を受け取ります。これは大切に保管し、ご家族にも預けた事実を伝えておきましょう。
「本人が行かなければならない」という点は、足腰が弱ってきた方には負担になります。だからこそ、元気で自分で動けるうちに準備しておくことに大きな意味があるのです。なお、書いた後に内容を変えたくなった場合は、撤回や書き直しもできます(再度の手続きが必要です)。
自宅保管・保管制度・公正証書遺言の比較は?費用と確実性で選ぶ
遺言の残し方は、大きく3つあります。費用と確実性で並べると、選びやすくなります(2026年5月現在)。
| 方式 | 主な費用 | 形式不備のリスク | 紛失・改ざん | 検認 | 向いている人 |
|---|---|---|---|---|---|
| 自宅で自筆保管 | ほぼ無料 | 自己責任で残る | 防げない | 必要 | とにかく費用をかけたくない人 |
| 自筆証書遺言書保管制度 | 1通3,900円 | 形式は職員が確認 | 法務局が防ぐ | 不要 | 費用を抑えつつ安全に残したい人 |
| 公正証書遺言 | 財産額に応じた手数料+証人手配 | 公証人が関与し低い | 原本を公証役場が保管 | 不要 | 確実性を最優先したい人 |
「公正証書遺言(こうせいしょうしょゆいごん)」は、公証人という法律の専門家が作る遺言で、証人2名が立ち会います。費用は財産の額によって変わりますが、確実性は最も高い方式です。一方の保管制度は、自分で書く手軽さと、3,900円という抑えた費用が魅力です。
ざっくり言えば、費用を抑えたいなら保管制度、確実性を最優先するなら公正証書遺言、という使い分けになります。どちらが合うかは、財産の中身(特に分けにくい不動産があるか)やご家族の関係によっても変わります。
不動産があるなら、遺言だけで安心しないために
ここで、不動産を持つ方に向けて、生前準備でとくに大切な点をお伝えします。
遺言書をきちんと残しても、認知症などで判断能力が落ちると、ご自宅などの不動産が「凍結」され、売るに売れなくなることがあります。本人が売買契約の意思を示せなくなるためです。こうなると、家族がいくら困っても、原則として勝手には売却できません。これは遺言とは別の問題で、家族信託や任意後見といった「元気なうちにしか結べない」備えが関わってきます。
また、現金と違って、不動産は「きれいに半分こ」がしにくい財産です。実家を兄弟で相続したものの、誰も住まず・売らずで空き家になり、固定資産税や管理費だけがかかり続ける——そんなご相談も後を絶ちません。
私たちROCKEDGEでは、「まだ何も決まっていない」生前の段階から、ご自宅が今いくらで売れそうかという査定や、将来の売却・活用のシミュレーション、必要に応じた税理士・司法書士との連携まで、中立的な立場で伴走しています。「売りなさい」とお勧めするためではなく、遺言を書く前に、わが家の不動産をどう扱うのが家族にとって一番もめないかを一緒に整理するためです。元気な今だからこそ、選べる道がたくさんあります。
なお、ここで紹介した制度や手続きは、個別の事情(家族構成・財産の種類・健康状態など)によって最適な選び方が変わります。実際に進める際は、法務局や、司法書士・税理士などの専門家に確認しながら進めることをおすすめします。
FAQ
Q:保管制度を使えば、遺言の内容まで法務局がチェックしてくれますか? A:いいえ。法務局が確認するのは日付・署名・押印といった「形式」が整っているかどうかだけです。書いた内容で家族が円満に分けられるか、税金面で不利でないかまでは見てくれません。内容については別途、専門家への相談をおすすめします。
Q:手数料の3,900円のほかに、毎年お金はかかりますか? A:保管の申請手数料は1通3,900円で、これは最初に納める一度きりの費用です(2026年5月現在)。預けている間の年間保管料のようなものはかかりません。ただし、後から内容を確認・変更する手続きには、別途定められた手数料がかかります。
Q:体が不自由で、本人が法務局へ行くのが難しい場合はどうすればよいですか? A:保管制度は本人が出向くことが必須で、代理や郵送はできません。出向くのが難しい場合は、公証人が出張して作成できる公正証書遺言など、別の方法を検討することになります。だからこそ、自分で動けるうちの準備が大切です。
Q:保管した遺言書があることを、家族はどうやって知るのですか? A:相続が起きたあと、ご家族は全国どこの遺言書保管所でも「遺言書が預けられているか」を調べることができます。とはいえ、見落としを防ぐため、預けた事実と保管証の存在を、信頼できるご家族に生前から伝えておくと確実です。
Q:すでに公正証書遺言を作っています。保管制度も重ねて使うべきですか? A:公正証書遺言は原本を公証役場が保管し、検認も不要なので、重ねて自筆の保管制度を使う必要は通常ありません。複数の遺言が残ると、どれが有効かで家族が混乱することもあるため、方式は一本化しておくのが安心です。
相続のお悩みはROCKEDGEの無料相談へ
ROCKEDGEでは相続に関するご相談を承っています。「何から手をつければいいか分からない」という段階からお気軽にご連絡ください。業界24年の経験で、あなたの状況に合った選択肢を中立的な立場でご提案します。
対応エリア: 東京・埼玉・神奈川・千葉(1都3県)