生前贈与の基礎、暦年贈与110万円と相続時精算課税のどちらを選ぶ?

生前贈与の暦年課税110万円と相続時精算課税2500万円+年110万円の違いを、2024年改正の持ち戻し7年延長もふまえて解説。撤回不可の注意点や、実家を贈与する際に相続より高くなる登録免許税・不動産取得税まで、業界24年の視点でやさしく整理します(2026年6月現在)。

この記事でわかること

  • 暦年贈与の110万円(毎年の非課税枠)と、相続時精算課税の2500万円+年110万円の違い
  • 2024年の改正で、暦年贈与の「持ち戻し」が3年から7年へ延びた意味
  • どちらを選ぶと家族にとって良いか、判断の入り口
  • 実家など不動産を生前にあげるときの、相続より高くつく税金の落とし穴

結論を先にお伝えします。 暦年贈与110万円と相続時精算課税は、どちらが正解と決まっているわけではなく、ご家族の年齢・財産の中身・あげたい相手によって有利不利が入れ替わります。元気な今のうちに方向性だけでも決めておくことが、いちばんの備えです。

先月、70代のお父様の財産整理を考えていらっしゃるご相談者様(40代の娘さん)から、こんなご相談を受けました。「父が『毎年110万円ずつあげれば税金がかからないらしい』と言って急に贈与を始めようとしている。でも本当にそれでいいのか分からない」というものでした。お話を伺うと、ご家族の財産の大半は実家の土地建物で、現金はそれほど多くありませんでした。実はこのケース、現金を毎年贈与するより先に考えるべきことがいくつもあったのです。本記事では、その判断材料をやさしく整理します。

暦年贈与の110万円とは?まず基本から

「暦年(れきねん)課税」とは、1月1日から12月31日までの1年間にもらった財産の合計に対してかかる贈与税の、いちばん基本的な数え方です。

ポイントは、1年あたり110万円までは贈与税がかからないという非課税の枠(基礎控除)があることです。これは「もらう人ひとりにつき1年110万円まで」という意味で、たとえば子ども2人にそれぞれ110万円ずつ渡せば、合計220万円を無税で渡せます(2026年5月現在)。

110万円を超えた部分には、超えた金額が大きいほど高くなる税率(速算)で贈与税がかかります。たとえば親から子へ500万円を1年で贈与すると、110万円を引いた390万円に税率をかけて税額を計算します。「少しずつ、長い年数をかけて渡す」と非課税枠を毎年使えるため、コツコツ型の対策として広く使われてきました。

※「速算」とは、課税される金額に決まった税率をかけ、一定額を引いて素早く税額を求める方法です。

2024年改正の「持ち戻し7年」に注意

ここが、近年いちばん大事な変更点です。

これまでは、贈与した人が亡くなると、亡くなる前3年以内の暦年贈与は「なかったこと」にして相続財産に足し戻し、相続税の計算に含めるルールでした。これを「持ち戻し(生前贈与加算)」といいます。

2024年(令和6年)1月1日以降の贈与から、この持ち戻し期間が3年から7年へ段階的に延長されました。つまり、亡くなる前の7年間にあげた分は、相続税の計算上、戻して数えられる可能性があります(延長された4年分については合計100万円までを差し引く緩和措置あり)。

これが意味するのは、「高齢になってから慌てて暦年贈与を始めても、7年以内に相続が起きれば節税効果が薄れる」ということです。だからこそ、元気で余裕のある早い時期に始めるほど有利になります。亡くなった後ではこの対策は一切できません。早く動くほど選択肢が多い、という典型例です。

相続時精算課税とは?2500万円+年110万円

もう一つの選び方が「相続時精算課税」です。名前は難しいですが、考え方はシンプルです。

これは、累計2500万円までの贈与にはいったん贈与税をかけず、あげた人が亡くなったときに相続財産にまとめて加えて精算する制度です。原則として60歳以上の親・祖父母から、18歳以上の子・孫への贈与で選べます(2026年5月現在)。2500万円を超えた部分には一律20%の贈与税がかかります。

さらに2024年から、この制度にも毎年110万円の基礎控除が新設されました。この年110万円分は、暦年贈与の持ち戻しと違って相続のときに足し戻されません。少額をコツコツ渡したい場合、改正後はこちらが使いやすくなった場面もあります。

ただし最大の注意点は、**一度この制度を選ぶと、その相手からの贈与については暦年課税に戻せない(撤回できない)**ことです。「来年から普通の110万円贈与に戻したい」はできません。選択は慎重に行う必要があります。

暦年贈与と相続時精算課税、どちらを選ぶ?

両者は併用できず、贈与する人ごとにどちらかを選びます。ざっくりした目安を表にまとめます。

比較項目暦年贈与(110万円)相続時精算課税
非課税の枠毎年110万円累計2500万円+毎年110万円
持ち戻し死亡前7年へ延長110万円超の贈与分は相続時に精算
撤回いつでも切替可一度選ぶと撤回不可
向きやすい人早くから長期で渡せる人まとまった額を早めに渡したい人

「どちらが得か」は、年齢・財産額・健康状態・あげたい相手の数で変わります。たとえば若くて時間をかけられるなら暦年贈与、すでに高齢で大きな財産を早く動かしたいなら精算課税が候補になる、というのは一例にすぎません。金額を保証する話ではなく、必ずご自身の事情で税理士に試算してもらうことをおすすめします。

実家など不動産を生前贈与するときの落とし穴

冒頭のご相談のように、財産の中心が不動産の場合は、現金とはまったく事情が変わります。

不動産を生前贈与すると、名義変更にかかる登録免許税が、相続より高くなります。相続による名義変更は固定資産税評価額の0.4%ですが、贈与の場合は2.0%です(2026年5月現在)。さらに、相続では原則かからない不動産取得税が、贈与ではかかる点にも注意が必要です。

一方で、生前に不動産を整理しておく価値もあります。よくあるのが「親が認知症になり、判断能力が下がると、実家を売ることも貸すこともできなくなる(資産の凍結)」というケースです。元気な今なら、売る・残す・誰に渡すを家族で話し合えます。分けにくい不動産を、生前に売って現金にしておけば、相続のときの「きょうだいでもめる」原因を減らせることもあります。

こうした「贈与すべきか、生前に売っておくべきか」は、税金だけでなく家族関係まで絡む難しい判断です。ROCKEDGEでは、実家の査定から売却、税理士・司法書士との連携まで、どこか特定の手法に偏らず中立の立場でご一緒できます。「まだ何も決めていないが、選択肢を知りたい」という段階でのご相談を、いちばん歓迎しています。

不動産の生前対策は、制度の要件や金額の見込みが一人ひとり大きく異なります。個別の事情により結論が変わるため、実行の前に必ず税理士・司法書士などの専門家にご確認ください。 本記事は2026年5月現在の制度に基づく一般的な解説です。

まとめ:元気な今が、いちばん選択肢が多い

暦年贈与と相続時精算課税は、どちらかが優れているのではなく、使いどころが違う道具です。共通して言えるのは、亡くなった後では選べない・動かせないということ。早く始めるほど、家族がもめにくく、税金も抑えやすくなります。まずは「我が家の財産は現金か不動産か」を確かめるところから、はじめの一歩を踏み出してみてください。


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よくある質問

暦年贈与の110万円は、誰から誰へでも毎年使えますか?
贈与税の110万円の基礎控除は「財産をもらう人ひとりにつき1年間で110万円まで」という枠です。親・祖父母・他人など、誰からもらっても、その人が1年間にもらった合計が110万円以下なら贈与税はかかりません。複数の人から少しずつもらう場合は合算して判定する点に注意が必要です(2026年5月現在)。
相続時精算課税を選ぶと、もう暦年贈与の110万円は一切使えなくなりますか?
その贈与者(あげる人)からの贈与については、暦年課税には戻せません。ただし2024年から精算課税にも年110万円の基礎控除が新設されたため、その人からの少額贈与はこの枠で対応できます。別の人からの贈与は引き続き暦年課税で判断します。
持ち戻しが7年に延びたのは、過去の贈与にもさかのぼって適用されますか?
延長は2024年1月1日以降に行われた贈与から段階的に適用されます。それ以前の贈与の取り扱いも含め、実際に何年分が加算されるかは贈与の時期と相続開始の時期で変わるため、個別に確認が必要です(2026年5月現在)。
実家を生前に子へ贈与すると、相続でもらうより税金は高くなりますか?
名義変更の登録免許税は相続の0.4%に対し贈与は2.0%で、贈与の方が高くなります。さらに相続では原則かからない不動産取得税が贈与ではかかります。贈与税本体とあわせ、総額で不利になる場合があるため、売却や相続との比較を専門家に試算してもらうことをおすすめします。
親が認知症になると、本当に実家を売れなくなるのですか?
ご本人の判断能力が低下すると、原則として売買契約などの法律行為ができなくなり、実家が「凍結」状態になることがあります。成年後見制度などの手続きが必要になり、時間も手間もかかります。元気なうちに方針を決めておくことが、こうした事態を避ける備えになります。

出典・参考

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