この記事でわかること
- 空き家を「古家付き土地」で売るか「更地」にして売るかで、税金・解体費・買主層がどう変わるか
- 売主が負う契約不適合責任(改正民法562条以下)と、「現況有姿・容認事項」で範囲を限定する考え方
- 残置物・越境(樹木や塀)・境界未確定のまま売ると、なぜ買主が逃げ価格が下がるのか
- 相続空き家の3000万円特別控除(措置法35条3項)の譲渡期限が2027年12月31日であること
- 放置して特定空家・管理不全空家に指定されると、住宅用地特例が外れ固定資産税が上がること
空き家売却で失敗しないための要点は、契約不適合責任を「現況有姿・容認事項」で限定し、残置物と境界を片付けたうえで、3000万円特例の期限(2027年12月31日)までに譲渡を完了させることの3点に集約されます。
先月、ご相談者様から実際に受けたケースをご紹介します。親御様が亡くなり、誰も住まなくなった築45年の戸建てを「とりあえず空き家のまま」相続したものの、固定資産税の通知を見て驚いて来られた方でした。話を伺うと、相続から既に2年半。仏壇や家財はそのまま、庭の木は隣家へ越境し、境界杭も見当たらない状態でした。「早く売りたいが何から手をつければ」というご相談です。実はこのケース、放置すればするほど不利になる要素が複数重なっていました。本記事では、私が業界24年で見てきた典型的な落とし穴を順に整理します。
古家付き土地で売る? 更地にして売る?
空き家の売り方は大きく2つです。建物を残したまま「古家付き土地」として売るか、解体して「更地」で売るか。どちらが得かは一概に言えず、税金・費用・買主層が変わります。
| 項目 | 古家付き土地 | 更地 |
|---|---|---|
| 解体費 | 不要(買主負担) | 売主負担(木造で坪3〜5万円が目安・2026年5月現在) |
| 固定資産税の住宅用地特例 | 建物がある間は継続 | 解体翌年から特例が外れ得る |
| 買主層 | 安く買ってリフォーム・建替え希望者 | すぐ建てたい層・現金化したい層 |
| 売却スピード | 価格次第 | 一般に間口が広い |
Q: 解体してから売るべき? A: 必ずしも有利とは限りません。 解体費を売主が負担しても、その分が売値に上乗せできるとは限らず、さらに解体すると土地上の建物がなくなるため、後述する住宅用地特例が外れて翌年の固定資産税が上がる可能性があります。「古家付きのまま、解体費相当を値引き」という落としどころも多く使われます。判断は立地と買主像によります。
売主の契約不適合責任とは(改正民法562条以下)
2020年4月施行の改正民法により、従来の「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」へと改められました。契約不適合責任とは、引き渡した物が「契約の内容に適合しない」場合に、売主が買主に対して負う責任のことです。買主は、修補(追完)請求・代金減額請求・損害賠償・契約解除を求めることができます(民法562条〜564条ほか)。
築古の空き家は、雨漏り・シロアリ・給排水管の劣化など、不具合があって当然です。ここで重要なのが、何が「契約の内容」かを契約書で明確にしておくことです。
「現況有姿・容認事項」で範囲を限定する
実務では、「現況有姿(げんきょうゆうし)」=今あるそのままの状態で引き渡すことを明記し、想定される不具合を「容認事項」として契約書に列挙します。例えば「築年数相応の雨漏り・建具の不具合・設備の老朽化があり、買主はこれを容認のうえ購入する」と書けば、その範囲については契約に適合していることになり、後からの責任追及を抑えられます。
ただし注意点があります。
- 個人売主でも、知っていた不具合(知っている雨漏り等)を隠すと、容認事項に書いても免責が認められない場合があります(民法572条の趣旨)。知っている不具合は正直に開示するのが結局は安全です。
- 「契約不適合責任を一切負わない」という全部免責特約は、個人間売買では一定有効ですが、買主とのトラブルの火種にもなります。範囲を具体的に書く方が、双方にとって安全です。
私の経験上、売却後のトラブルの大半は「言った・聞いていない」の認識ずれです。告知書(物件状況報告書)に不具合を具体的に書き出すことが、最大の自衛策になります。
残置物・越境・境界未確定のリスク
買主が最も嫌がるのが「片付いていない物件」です。次の3点は売却前に必ず確認してください。
残置物(家財・仏壇・ゴミ)
原則として、引き渡し時までに売主が残置物を撤去するのが一般的です。家財をそのままにして「処分は買主で」とすると、その手間とコストが値引き材料になり、価格が下がります。仏壇は閉眼供養(魂抜き)が必要な場合もあり、早めの段取りが欠かせません。
越境(樹木の枝・塀・屋根)
隣地へ枝が伸びている、ブロック塀が境界をまたいでいる、といった越境は、買主にとって将来の紛争リスクです。なお2023年4月施行の改正民法233条により、一定の手続きを経れば越境した隣地の枝を自ら切除できる場合がありますが、トラブル予防のため売却前に隣地と「越境の覚書」を交わしておくのが実務上は安全です。
境界未確定
境界杭がない、隣地と認識がずれている状態のまま売ると、引き渡し後に「土地が思ったより狭い」という紛争に発展します。**確定測量(隣地所有者の立会いによる境界確定)**を行い、面積を確定させてから売るのが理想です。費用と時間はかかりますが、買主の安心料と考えれば結果的に高く・早く売れることが多いです。
相続空き家の3000万円特別控除は2027年12月31日が期限
ここが本記事で最もお伝えしたい点です。
被相続人(亡くなった方)が一人で住んでいた家を相続し、それを売却した場合、一定要件を満たせば譲渡所得から最大3000万円を控除できる特例があります(租税特別措置法35条3項、いわゆる「空き家の3000万円特別控除」)。譲渡益から3000万円を引けるため、税負担を大きく圧縮できます。
主な要件(2026年5月現在)は次のとおりです。
- 1981年(昭和56年)5月31日以前に建築された家屋であること
- 相続開始直前に被相続人が一人で居住していたこと(区分所有建物=マンション等は対象外)
- 相続時から譲渡時まで、事業・貸付け・居住の用に供されていないこと
- 譲渡対価が1億円以下であること
- 耐震基準を満たすよう改修して売る、または家屋を取り壊して売ること(2024年1月以降は、譲渡の翌年2月15日までに買主が改修・解体する場合も対象に緩和)
- 相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡すること、かつ特例の適用期限である2027年(令和9年)12月31日までに譲渡すること
Q: 期限は「相続から3年」と「2027年末」、どちらが効くの? A: 早く来る方が締め切りです。 たとえば2023年に相続した場合、「相続から3年=2026年末」が先に来るのでそちらが期限。一方で2025年に相続した場合は「3年=2028年末」より制度の期限「2027年12月31日」が先に来るため、2027年末が締め切りになります。冒頭の相続から2年半経っていたご相談者様は、まさに「相続から3年」が迫っており、急いで段取りを組む必要がありました。
要件は細かく、適用には確定申告と書類(被相続人居住用家屋等確認書など)が必要です。ご自身のケースが当てはまるか不安な場合は、ROCKEDGEの無料相談で、相続の時期と建物の状況から「いつまでに何を終えれば間に合うか」の逆算スケジュールを一緒に確認することをおすすめします。
放置すると固定資産税が上がる(特定空家・管理不全空家)
「いつか売ろう」と放置するほど不利になります。2023年12月に施行された改正空家対策特別措置法により、従来の「特定空家」に加え、**そのまま放置すれば特定空家になるおそれのある「管理不全空家」**という区分が新設されました。
市区町村から特定空家・管理不全空家に指定され、勧告を受けると、住宅用地特例(住宅が建つ土地の固定資産税を最大1/6に軽減する措置)が外れます。その結果、土地の固定資産税が数倍に跳ね上がる可能性があります。さらに特定空家は、行政代執行による強制解体(費用は所有者負担)の対象にもなり得ます。
つまり、空き家は「持っているだけでコストが増え続けるリスク資産」になりかねません。早期の売却判断が、税負担と紛争の両面で身を守ることにつながります。
まとめ:順番を間違えないことが何より大事
空き家売却は、(1)契約不適合責任を現況有姿・容認事項で適切に限定し、(2)残置物・越境・境界を片付けて買主の不安を消し、(3)3000万円特例の期限(2027年12月31日、または相続から3年の早い方)までに譲渡を完了させる——この順番と期限管理が成否を分けます。
なお、本記事は一般的な解説です。適用要件や税額、契約条件は個別の事情(相続の時期・建物の構造・隣地との関係など)により大きく異なるため、実際の手続きの前には、税務は税理士、登記は司法書士、売買は不動産の専門家へ必ずご相談ください。
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