この記事でわかること
- 相続税で差し引ける債務の範囲(借入金・未払金・未納の税金)と、「確実と認められる債務」という要件の意味
- 葬式費用として控除できるもの(通夜・火葬・埋葬・納骨・お布施)と、控除できないもの(香典返し・初七日以降の法会・墓石購入費)の線引き
- 債務控除を受けられる人は相続人と包括受遺者に限られること、相続放棄した人が葬式費用を負担した場合の取扱い
- 墓所・霊びょうなど非課税財産に対応する債務が控除できない理由
- 控除額を相続税申告書(第13表)に反映する手順と、領収書が出ないお布施・心付けの記録方法
相続税では、被相続人が死亡時に負っていた確実な債務と、相続人・包括受遺者が負担した葬式費用を遺産総額から差し引けます。ただし香典返しや墓石購入費、非課税財産に対応する債務は対象外です(2026年10月現在)。
ROCKEDGE住まい相談室には、「葬儀社の請求書に載っている費用のどこまでが相続税の控除対象になるのか分からない」「亡くなった親の住宅ローンと未払の固定資産税を、申告書のどこに書けばいいのか見当がつかない」というご相談は少なくありません。葬儀の直後で気持ちの整理もつかないうちに、領収書の束を前にして手が止まってしまう、という状況で迷われる方が多くいらっしゃいます。
相続税で差し引ける債務とは?(債務控除の仕組み)
相続税法第13条第1項は、相続または遺贈により財産を取得した者について、取得した財産の価額から次の金額のうち「その者の負担に属する部分の金額」を控除して課税価格を計算すると定めています。
- 被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの(公租公課を含む)
- 被相続人に係る葬式費用
ポイントは2つあります。ひとつは、控除できるのは被相続人が亡くなった時点で現に存在していた債務であること。もうひとつは、実際にその債務を負担する人の課税価格から引くという点です。負担額が決まっていない場合は、民法第900条から第902条までの規定による相続分、または包括遺贈の割合に応じて負担する金額として取り扱われます(相続税法基本通達13-3)。
控除できる債務の具体例
| 区分 | 具体例 | 根拠・留意点 |
|---|---|---|
| 借入金 | 住宅ローン、事業用借入金、個人からの借入金 | 相続開始時に現に存するもの |
| 未払金 | 生前の診療分の未払医療費、未払の水道光熱費・家賃、入院費 | 死亡時に未払であったもの |
| 未納の公租公課 | 所得税、住民税、固定資産税など | 相続税法第13条第1項第1号が「公租公課を含む」と明記 |
| 死亡後に確定した税金 | 被相続人に課される所得税などで、死亡後に相続人が納付・徴収されることになったもの | 死亡時に確定していなくても控除できる(国税庁タックスアンサーNo.4126) |
| 事業上の未納税額 | 源泉徴収した所得税、消費税、酒税などで相続開始の際未納のもの | 相続税法基本通達13-8 |
一方で、相続人などの責任に基づいて納付したり徴収されることになった延滞税や加算税は、遺産総額から差し引けません(No.4126)。申告が遅れたことで課されたペナルティは、被相続人の債務ではなく相続人側の事情で生じたものだからです。
「確実と認められる債務」とはどういう意味か
相続税法第14条第1項は、控除すべき債務を「確実と認められるものに限る」と定めています。この「確実」の判断について、相続税法基本通達14-1は次のように述べています。
債務が確実であるかどうかについては、必ずしも書面の証拠があることを必要としないものとする。 なお、債務の金額が確定していなくても当該債務の存在が確実と認められるものについては、相続開始当時の現況によって確実と認められる範囲の金額だけを控除するものとする。
契約書がなければ一切認められない、という性質のものではありません。ただし裏を返せば、存在と金額を説明できる材料が必要ということでもあります。
確実性が否定される、または制限される典型例が次の2つです。
- 保証債務:原則として控除しません。ただし主たる債務者が弁済不能の状態にあり、求償して返還を受ける見込みがない場合には、弁済不能の部分の金額を控除できます(通達14-3(1))
- 消滅時効が完成した債務:相続開始時にすでに消滅時効が完成していた債務は、確実と認められる債務に該当しないものとして取り扱われます(通達14-4)
なお連帯債務は、負担すべき金額が明らかになっている場合にその負担額を控除します(通達14-3(2))。
Q: 相続財産を管理するためにかかった費用は債務控除できますか? A: できません。民法第885条の規定により相続財産の中から支弁する「相続財産に関する費用」は、相続税法第13条第1項第1号に掲げる債務とはならないと明記されています(通達13-2)。相続開始後に発生した費用は、被相続人の債務ではないという整理です。
葬式費用で控除できるもの・できないものの線引きは?
葬式費用は、厳密には被相続人の債務ではありません。しかし相続税法第13条第1項第2号により、遺産総額から差し引くことが認められています。国税庁タックスアンサーNo.4129と相続税法基本通達13-4・13-5が、その範囲を具体的に示しています。
| 控除できるもの | 控除できないもの |
|---|---|
| 葬式・葬送に際し、またはその前において、火葬・埋葬・納骨のためにかかった費用(仮葬式と本葬式を行った場合は両方) | 香典返しのためにかかった費用(香典返戻費用) |
| 遺体や遺骨の回送にかかった費用 | 墓石や墓地の買入れのためにかかった費用、墓地を借りるためにかかった費用 |
| 葬式の前後に生じた費用で通常葬式に欠かせない費用(通夜の費用など) | 初七日など法事(法会)のためにかかった費用 |
| 葬式に当たりお寺などに対して読経料などのお礼をした費用(お布施) | 医学上または裁判上の特別の処置に要した費用 |
| 死体の捜索、または死体や遺骨の運搬にかかった費用 | — |
境界線は「その葬式を執り行うために通常必要だったか」にあります。通夜は葬儀の一連の流れに欠かせないものとして控除対象ですが、初七日以降の法会は葬式そのものとは別の宗教行事と位置づけられ、対象外になります。
香典返し・墓石がなぜ対象外なのか
香典返しは、受け取った香典に対するお返しです。香典そのものを遺産総額に加算していないため、その返礼費用を差し引くと計算が合わなくなる、という考え方になります。
墓石・墓地については、後述する非課税財産の問題が関わります。
金額の「相当程度」という歯止め
通達13-4(2)は、葬式に際し施与した金品について「被相続人の職業、財産その他の事情に照らして相当程度と認められるものに要した費用」と限定しています。お布施や心付けが無制限に認められるわけではなく、社会通念上の相当性という枠がかかっている点に注意が必要です。
債務控除を受けられる人は誰か?相続放棄した人の葬式費用は?
債務や葬式費用を差し引けるのは、その債務などを負担することになる相続人や包括受遺者です(No.4126)。包括受遺者とは、遺言により「遺産の全部」「遺産の3分の1」といったように、遺産の全体に対する割合で財産を与えられた人をいいます。
逆に、特定の財産だけを遺言で受け取った特定受遺者は、原則として債務控除の対象外です。相続税法第13条第1項が「包括遺贈及び被相続人からの相続人に対する遺贈に限る」と括弧書きで範囲を限定しているためです。
また、日本国内に住所があるかどうかによって控除できる債務の範囲が変わります。相続や遺贈で財産を取得した時に日本国内に住所がない人は、日本国籍の有無や相続開始前10年以内の住所の有無などで取扱いが分かれ、これらの要件に該当しない人は控除できる債務の範囲が限られ、葬式費用を控除することもできません(No.4126)。
相続放棄した人が葬儀費用を負担した場合
相続税法基本通達13-1は、この論点を正面から扱っています。
相続を放棄した者及び相続権を失った者については、法第13条の規定の適用はないのであるが、その者が現実に被相続人の葬式費用を負担した場合においては、当該負担額は、その者の遺贈によって取得した財産の価額から債務控除しても差し支えないものとする。
つまり、相続放棄をした人には原則として債務控除の適用がありませんが、実際に葬式費用を負担し、かつ遺贈によって財産を取得している場合には、その財産の価額から差し引くことが認められています。遺贈による取得がまったくない場合は、そもそも差し引く対象の課税価格が生じないため、控除の余地もないという整理になります。
非課税財産に対応する債務はなぜ控除できないのか?
相続税法第12条第1項第2号は、墓所、霊びょう及び祭具並びにこれらに準ずるものの価額を相続税の課税価格に算入しないと定めています。非課税財産です。
そして第13条第3項は、こうした非課税財産の「取得、維持又は管理のために生じた債務の金額」は控除金額に算入しないと規定しています。
考え方はシンプルです。課税していない財産に紐づく債務を差し引けば、その分だけ課税対象が不当に目減りしてしまうためです。プラス側を数えていないのだから、対応するマイナス側も数えない、という対称性の話といえます。
具体例として、通達13-6はこう述べています。
被相続人の生存中に墓碑を買い入れ、その代金が未払であるような場合には、法第13条第3項本文の規定により、当該未払代金は債務として控除しないのであるから留意する。
国税庁も、「被相続人が生前に購入したお墓の未払代金など非課税財産に関する債務は、遺産総額から差し引くことはできません」と明記しています(No.4126)。生前にお墓を購入しておくこと自体は相続税の観点で有利に働きますが、その未払代金まで債務控除できるわけではないという点が盲点になりがちです。
控除額を申告書に反映する手順と、領収書が出ない支出の記録の残し方
第13表「債務及び葬式費用の明細書」に集約する
相続税の申告書では、債務と葬式費用を**第13表「債務及び葬式費用の明細書」**にまとめます(国税庁「[手続名]相続税の申告手続」の様式一覧で確認できます)。手順は次の流れです。
- 債務の内容(借入金・未払金・公租公課など)、債権者、発生年月日、金額を一覧化する
- 葬式費用の支払先、支払年月日、金額を一覧化する
- それぞれについて、誰がいくら負担するのかを人ごとに区分して記入する(通達13-3の「その者の負担に属する部分の金額」)
- 第13表の合計額を、第1表「相続税の申告書」の債務及び葬式費用の欄へ反映させ、課税価格を計算する
申告書の提出期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です(相続税法第27条第1項)。負担者が決まらないまま期限を迎えると、相続分や包括遺贈の割合で按分する処理になります。
領収書が出ない支出をどう残すか
お布施、戒名料、火葬場や運転手への心付け、お手伝いいただいた方への謝礼などは、領収書が発行されないことが珍しくありません。通達14-1が「必ずしも書面の証拠があることを必要としない」としているのは心強い一方、何も記録がなければ説明そのものができません。実務上は、支出した時点で次を控えておくことをおすすめします。
- 支払年月日
- 支払先の名称(寺院名・会館名・氏名など)
- 金額
- 支払の名目(読経料、戒名料、心付けなど)
- 誰の財布から出したか(相続人のうち誰が負担したか)
出金元の預金通帳の記録や、葬儀社が発行する見積書・請求書の明細、お寺の受付控えなどを併せて保管しておくと、裏付けの精度が上がります。メモは支払の都度、その日のうちに残すのが確実です。
不動産がからむときは債務の切り分けから
抵当権の残る自宅、相続した空き家に積み上がった未納の固定資産税、共有名義の収益物件など、不動産がからむと「どれが被相続人の債務で、どれが相続開始後に発生した費用か」の切り分けから必要になります。不動産の評価と売却・活用の見通しを前提に整理したいという段階であれば、ROCKEDGE住まい相談室のお問い合わせフォームから無料でご相談いただけます。税務の最終判断は税理士が行いますが、不動産側の事実関係を先に固めておくと、税理士との打ち合わせが格段に進みやすくなります。
判断が分かれる支出は必ず税理士に確認する
戒名料の取扱い、通夜の飲食費のうちどこまでが「通常葬式に欠かせない費用」にあたるか、遺体の搬送以外の親族の交通費、墓地の永代使用料の性質、お布施の金額が「相当程度」に収まるか——こうした論点は、金額や事情によって結論が変わりえます。自己判断で控除に入れた結果、後から否認されると、延滞税や加算税は債務控除の対象外(No.4126)であるため、二重に負担が生じます。迷った支出は、申告前に税理士へ確認してください。
本記事は2026年10月現在の法令等(タックスアンサーNo.4126・No.4129はいずれも令和8年4月1日現在法令等)に基づく一般的な解説です。控除の可否や金額は、債務の内容、遺産分割の状況、相続人の住所要件など個別の事情により異なります。実際の申告にあたっては、税理士などの専門家にご相談ください。
---MARKDOWN_BODY_END---
相続のお悩みはROCKEDGEの無料相談へ
ROCKEDGEでは相続に関するご相談を承っています。「何から手をつければいいか分からない」という段階からお気軽にご連絡ください。数多くの相談に対応してきた知見をもとに、あなたの状況に合った選択肢を中立的な立場でご提案します。
対応エリア: 東京・埼玉・神奈川・千葉(1都3県)