この記事でわかること
- 2026年6月に成立・公布された「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)の中身
- 自筆証書遺言の「押印」がいつ、どう任意になるのか
- 新しく作られる「保管証書遺言」と、いまある法務局の保管制度(手数料3,900円)との違い
- 施行日がまだ決まっていない今、遺言を書くならどの方式を選べばよいか
- 元気なうちに進めておきたい生前準備の順番と、不動産で気をつけたいこと
2026年6月17日に成立し、6月24日に公布された民法等の改正法により、自筆証書遺言の押印が任意になり、電子データ等で作成して法務局が保管する「保管証書遺言」が新設されます。ただし施行日はまだ政令で定まっておらず、今つくる遺言は現行ルールに従う必要があります(2026年7月現在)。
ROCKEDGE住まい相談室にも、「ニュースで遺言のハンコがいらなくなると聞いたので、書くのを待ったほうがよいでしょうか」「パソコンで遺言が作れるようになるまで様子を見たい」といったご相談は少なくありません。お気持ちはよくわかりますが、待っている間に体調を崩されたり、判断能力が下がってしまったりすると、そもそも遺言が作れなくなります。この記事では「何が変わるのか」と「では今日どうするのか」を分けて整理します。
2026年に成立した遺言制度改正とは?いつから使えるの?
正式な名前は「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)です。法務省の公表によれば、令和8年(2026年)6月17日に成立し、6月24日に公布されました。
「公布」とは、法律が正式に決まって世の中に知らされることです。「施行」とは、その法律が実際に効き始めることです。この2つは同じ日ではありません。 今回の改正は、内容ごとに施行までの猶予期間が分けられています。
施行時期は3つに分かれている
| 改正の内容 | 施行時期の定め方 | 2026年7月現在の状況 |
|---|---|---|
| 遺言の押印の任意化等 | 公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日 | 施行日未定 |
| 成年後見制度の見直し | 公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日 | 施行日未定 |
| 保管証書遺言の創設等 | 公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日 | 施行日未定 |
保管証書遺言だけ猶予が長いのは、法務局のシステム改修が必要だからです。
「◯年◯月◯日から使えます」と書いてある情報を見かけても、2026年7月現在、施行日はどれも決まっていません。政令(内閣が定めるルール)が出て初めて日付が確定します。最新の状況は法務省のページでご確認ください。
成年後見制度も同じ法律で見直される
同じ法律で、成年後見制度も見直されます。法務省の説明では、後見および保佐の制度を廃止して補助の制度に一元化し、本人にとって必要な範囲で利用できるようにする、という内容です。判断能力が下がった後の支えかたが変わるということですが、こちらも施行日は未定です。
自筆証書遺言の「押印の任意化」で何がどう変わる?
自筆証書遺言とは、遺言を残す人が自分の手で書く遺言のことです。現在のルール(民法968条1項)では、全文・日付・氏名を自分で書き、そのうえで印を押すことが求められています。押印がないだけで無効になってしまう、という厳しい決まりです。
改正後は、この押印が任意になります。つまり「押しても押さなくてもよい」という扱いです。
改正前と改正後の比較
| 項目 | 改正前(現行・2026年7月時点で有効) | 改正後(施行日未定) |
|---|---|---|
| 全文の自書 | 必要(財産目録は例外的にパソコン等で作成可) | 引き続き必要 |
| 日付・氏名の自書 | 必要 | 引き続き必要 |
| 押印 | 必要(ないと無効) | 任意(なくても方式違反にならない) |
| 電子データでの作成 | 不可 | 保管証書遺言という新しい方式で対応(施行日未定) |
| 家庭裁判所の検認 | 必要(法務局の保管制度を使えば不要。遺言書保管法11条) | 保管証書遺言の検認の取扱いは未公表(2026年7月現在) |
Q: 今もっている遺言のハンコを消したほうがいいですか? A: いいえ。 押印は「任意」になるだけで、押してあることが不利になるわけではありません。今つくる遺言は現行ルールに従う必要があるので、必ず押印してください。改正を見越して押印を省くと、施行前に相続が起きた場合に無効になるおそれがあります。
新設される「保管証書遺言」とは?既存の保管制度と何が違う?
法務省の公表によれば、保管証書遺言は「電子データ等で作成し、法務局において保管する」新しい遺言の方式です。手書きが難しい方や、字を書くのに負担がある方にとって、選択肢が広がる制度といえます。
一方、すでにある「自筆証書遺言書保管制度」とは別のものです。混同されやすいので整理します。
| 自筆証書遺言書保管制度(現行) | 保管証書遺言(新設) | |
|---|---|---|
| 開始 | 令和2年(2020年)7月10日から運用中 | 施行日未定(公布から3年を超えない範囲内) |
| 作り方 | 自分の手で書いた遺言書を持参する | 電子データ等で作成する |
| 保管場所 | 法務局(遺言書保管所) | 法務局 |
| 手数料 | 保管の申請は遺言書1通につき3,900円 | 未定 |
| 検認 | 不要 | ― |
| 今使えるか | 使える | 使えない |
保管証書遺言の細かい手続きの流れ、必要書類、手数料は、2026年7月現在まだ公表されていません。「◯円くらい」「◯◯すればスマホで完結」といった具体的な数字や手順を見かけても、現時点では確定情報ではない点にご注意ください。制度が動き出す際には法務省・法務局から案内が出ます。
いま遺言をつくるなら、どの方式が安全?
繰り返しになりますが、今日つくる遺言に適用されるのは現行のルールです。待つのではなく、現行の方式で確実に有効なものを一度つくっておき、施行後に新しい方式へ作り直す、という進め方が現実的です。遺言は何度でも書き直せます(新しいものが優先されます)。
| 方式 | 費用の目安 | 主なメリット | 主な注意点 | 向いている方 |
|---|---|---|---|---|
| 自筆証書遺言(自宅などで保管) | 実質0円 | いつでもすぐ書ける | 紛失・改ざん・発見されないおそれ/家庭裁判所の検認が必要/形式不備で無効になりやすい | まず下書きとして残したい方 |
| 自筆証書遺言+法務局の保管制度 | 保管申請1通3,900円 | 紛失を防げる/検認が不要 | 全文を自分で手書きする必要がある/内容の相談には応じてもらえない | 手書きができ、費用を抑えたい方 |
| 公正証書遺言 | 公証人手数料(財産額等により変動) | 公証人が関与し方式不備になりにくい/原本が公証役場に残る | 証人2人以上の立会いが必要(民法969条1号)/費用がかかる | 不動産があり、確実性を重視したい方 |
法務局の保管制度は「形式のチェック(日付や署名があるか等)」はしてくれますが、書かれた内容が家族にとって適切かどうかまでは見てくれません。不動産のように分けにくい財産があるご家庭では、内容面の検討がとくに重要になります。
元気なうちに進める生前準備の5ステップ
遺言は「相続の準備」の一部にすぎません。順番を意識すると迷いにくくなります。
- 財産の棚卸しをする……預貯金・不動産・保険・借入をA4の紙1枚に書き出します。不動産は固定資産税の納税通知書と登記事項証明書を用意すると正確です。
- 不動産の「いまの価値」を把握する……相続税の話も、誰が引き継ぐかの話も、価格の目安がないと進みません。
- 誰に何を渡すか、家族の状況をふまえて決める……とくに実家を「誰も住まないのに共有名義にする」形は、後で売るときに全員の合意が必要になり、空き家化の入口になりやすい形です。
- 遺言を現行の方式でつくる……自筆なら押印を忘れずに。不動産があるなら公正証書遺言も検討します。
- 判断能力が下がった後の備えを考える……認知症などで判断能力が下がると、本人名義の不動産は原則として売却できなくなります(いわゆる凍結リスク)。介護費用のために実家を売ろうとした時点で動かせない、という事態は珍しくありません。任意後見や家族信託といった選択肢がありますが、いずれも元気なうちにしか契約できません。要件や向き不向きがあるため、司法書士・弁護士など専門家にご確認ください。
ROCKEDGE住まい相談室では、相続が起きる前の段階から、実家の価格の目安をお出ししたり、「売る・貸す・そのまま残す」を比べるお手伝いをしています。必要に応じて税理士・司法書士とも連携しますので、「まだ何も決まっていないが、いくらくらいなのかだけ知りたい」という段階でも構いません。売却を前提とせず、中立の立場でご一緒します。
なお、遺言の内容や相続税、後見・信託の選び方は、家族構成・財産の内訳・お住まいの地域によって答えが変わります。個別の事情により異なるため、詳細は弁護士・司法書士・税理士などの専門家へご相談ください。 また本記事の内容は2026年7月時点の情報にもとづくもので、今後の政令により施行日や運用が具体化される可能性があります。
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