この記事でわかること
- 親子間・親族間の不動産売買で「みなし贈与」と判断される仕組み(相続税法第7条)
- 税務上問題にならない「適正価格」の決め方と、根拠にできる客観資料3つ
- 親族間売買で住宅ローン審査が厳しくなりやすい理由と備え方
- 3,000万円特別控除など、多くの税制特例が親族間売買では使えない理由
- トラブルを防ぐために契約書・登記・代金授受で残すべき記録
結論を先にお伝えします。 親子間・親族間の不動産売買は、時価より著しく低い価額で売ると差額が贈与とみなされ贈与税の対象になります。相続税評価額や公示地価などの客観資料で適正価格を裏付け、契約・登記・代金授受を明確に残すことが要点です(2026年5月現在)。
先月、ご相談者様から実際にこんなケースを伺いました。「父名義の実家を、私(長男)が900万円で買い取りたい。固定資産税の通知では評価額が2,000万円ほどある。安く買えば父も助かるし、自分の負担も軽い」というご相談でした。お気持ちはよく分かります。しかし、このまま進めると差額の約1,100万円が「贈与」とみなされ、想定外の贈与税が長男に課される可能性が高い事案でした。業界24年の経験から申し上げると、親族間売買は「身内だから自由に値段を決められる」という思い込みが、最も大きな落とし穴になります。
親子間・親族間売買で「みなし贈与」とは何か
「みなし贈与」とは、形式上は売買でも、実質的に贈与と同じ経済的利益が移転したとみなして贈与税を課す制度です。根拠は相続税法第7条にあります。
国税庁のタックスアンサー「No.4423 個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき」では、著しく低い対価で財産を譲り受けた場合、その財産の時価と支払った対価との差額に相当する金額が、財産を譲渡した人から贈与により取得したものとみなされる、と明記されています(2026年5月現在)。
つまり、先ほどの実家のケースで言えば、時価2,000万円の不動産を900万円で売れば、差額の1,100万円分の利益が「親から子へ贈与された」と扱われ得るということです。
なぜ親族間でこのルールが重視されるのか
第三者同士の売買では、売主は1円でも高く、買主は1円でも安く交渉します。その結果として成立した価格は「市場が認めた時価」と考えられます。一方、親子・兄弟・夫婦などの親族間では、利害が一致して「身内に安く譲りたい」という動機が働きやすく、価格が時価から大きく乖離しがちです。だからこそ、税務上は適正価格との差額に注意が向けられます。
Q: いくら安ければ「著しく低い価額」になりますか? A: 法律で「時価の○割以下」という一律の数値基準が定められているわけではありません(2026年5月現在)。個別の事情を総合的に判断するとされており、時価との乖離が大きいほどみなし贈与と判断されるリスクは高まります。判断に迷う水準であれば、安易に進めず専門家に相談することをおすすめします。
「適正価格」はどう決めればよいのか
親族間売買で最も悩むのが「では、いくらで売ればよいのか」という点です。実務では、次の客観資料を根拠に適正価格を組み立てます。
| 資料 | 内容 | 入手先 |
|---|---|---|
| 相続税評価額(路線価方式・倍率方式) | 土地は路線価、家屋は固定資産税評価額をもとに評価 | 国税庁 路線価図・固定資産税課税明細 |
| 公示地価・標準地価格 | 毎年1月1日時点の標準地の正常な価格を国が3月に公示 | 国土交通省 地価公示 |
| 不動産鑑定評価 | 不動産鑑定士が個別物件を評価した鑑定評価書 | 不動産鑑定士 |
国税庁「No.4602 土地家屋の評価」によれば、土地は路線価が定められた地域では路線価方式、それ以外の地域では倍率方式で評価します(2026年5月現在)。これらは相続税の計算に使う評価額ですが、適正価格を検討する出発点としてよく用いられます。
客観資料で裏付けることが守りになる
最も確実なのは、不動産鑑定士による鑑定評価を取得することです。費用は数十万円程度かかることが一般的ですが、税務署に対して「これだけの根拠で価格を決めた」と説明できる強い資料になります。高額物件や、評価が割れやすい物件では、鑑定評価を取得しておく価値は十分にあります。
公示地価は、国土交通省の地価公示として「毎年1月1日時点における標準地の正常な価格」を示すもので、周辺の価格水準を把握する目安になります。複数の資料を突き合わせ、極端に安くない価格帯を選ぶことが、みなし贈与リスクを下げる現実的な方法です。
親族間売買で住宅ローン審査が厳しくなりやすい理由
「適正価格で売買するなら、買主側は住宅ローンを使えばいい」とお考えの方も多いのですが、ここにも注意点があります。親族間売買では住宅ローンの審査が厳しくなりやすいのが実情です。
- 金融機関は、親族間売買を「実際の住み替えではなく、資金捻出や債務整理が目的ではないか」と慎重に見る傾向がある
- 売買価格が時価と乖離していないか、より厳密に確認される
- そもそも親族間売買への融資を取り扱わない、または条件を限定する金融機関もある
このため、第三者間の売買では問題なく通るような案件でも、親族間という一点で審査が通らない、あるいは金利・融資額の条件が不利になることがあります。買主の資金計画は、ローンが想定どおり下りない場合も見据えて、余裕をもって設計しておくことが大切です。
3,000万円特別控除など「特例が使えない」落とし穴
親族間売買で見落とされがちなのが、多くの税制特例が親族間では適用できないという点です。
居住用財産を売ったときに譲渡所得から最高3,000万円を控除できる「3,000万円特別控除」は、売主にとって大きな節税策ですが、適用には要件があります。国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」では、適用要件として**「親子や夫婦など『特別の関係がある人』に対して売ったものでないこと」**が定められています。さらにこの「特別の関係がある人」には、生計を一にする親族、家屋を売った後にその家屋で同居する親族、内縁関係にある人、特殊な関係のある法人なども含まれると明記されています(2026年5月現在)。
つまり、親が子に居住用不動産を売却しても、その子が生計を一にする親族などに該当すれば、3,000万円特別控除は使えません。「身内に売れば特例で税金が安くなるはず」という前提が崩れることがあるため、売却前に適用可否を必ず確認してください。
Q: 別居していて生計も別の子どもへの売却なら特例は使えますか? A: 「生計を一にする親族」などの特別の関係に該当しなければ、要件を満たす余地はあります。ただし該当判断は個別事情によるため、税務署や税理士への事前確認をおすすめします(2026年5月現在)。
不動産の評価や特例の適用可否は、物件や家族構成によって結論が変わります。ROCKEDGEの無料相談では、お手元の固定資産税課税明細や登記事項証明書を拝見しながら、適正価格の考え方や進め方の整理をお手伝いしています。判断に迷う段階でこそ、早めにご相談ください。
トラブルを防ぐために残すべき記録
親族間売買は「あとで税務署や他の相続人から指摘される」ことが最大のリスクです。次の3点を明確に残してください。
- 契約書を作成する:売買価格・引渡日・支払条件を記した売買契約書を作り、価格の根拠資料(鑑定評価書・路線価・公示地価の写し)も保管する
- 登記を正しく行う:所有権移転登記を実際に行い、名義を確実に移す。登記を怠ると「本当に売買があったのか」が問われる
- 代金授受を記録に残す:現金手渡しではなく、銀行振込など履歴の残る方法で代金を授受する。「契約書はあるがお金が動いていない」状態は、贈与を疑われる典型例
これらを徹底すれば、「実態のある適正な売買だった」と客観的に説明できます。逆に、価格の根拠もなく、代金の動きも不明確なまま名義だけ移すと、贈与とみなされるリスクが一気に高まります。
なお、ここで解説した内容は一般的な考え方であり、適用される税率・特例・適正価格の判断は、物件の所在地・家族構成・取得経緯など個別の事情により異なります。実際に進める際は、税理士・不動産鑑定士・宅地建物取引業者などの専門家へご相談ください。
まとめ
親子間・親族間の不動産売買は、「身内だから安くしたい」という気持ちと、税務上の「適正価格」のあいだで判断が難しい取引です。著しく低い価額で売れば差額が贈与とみなされ(相続税法第7条)、住宅ローン審査は厳しくなりやすく、3,000万円特別控除など多くの特例も使えないことがあります。相続税評価額・公示地価・不動産鑑定評価といった客観資料で価格を裏付け、契約書・登記・代金授受を明確に残すこと——この基本を押さえることが、家族の安心につながります。
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