この記事でわかること
- プラスの財産より借金(マイナスの財産)が多いときに使える「相続放棄」とは何か
- 借金がいくらあるか分からないときに役立つ「限定承認」のしくみと、相続人全員で手続きする必要がある理由
- どちらも「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」に家庭裁判所へ申し立てる必要があること(民法第915条)
- 相続放棄をすると、借金だけでなく不動産などのプラスの財産も一切受け取れなくなるという落とし穴
- 後悔しないために、まず財産と借金の全体像を調べる「財産調査」が大切な理由
亡くなった方に借金があるときは、3か月以内に家庭裁判所で「相続放棄」か「限定承認」を選べます。ただし放棄すると家や土地も受け取れなくなるため、まず財産と借金の全体像を調べてから判断することが何より大切です。
先月、ご相談者様から実際にこんなご相談を受けました。お父様を亡くされた40代の女性で、「父名義の実家(戸建て)は残したい。でも、消費者金融からの督促状が何通も届いていて、借金がいくらあるのか怖くて確認できていない」というお悩みでした。よくよくお話を伺うと、相続が始まったことを知ってからすでに2か月が過ぎており、残された時間はわずか。「実家は守りたいけれど、借金は背負いたくない」――この相反する願いをどう扱うかが、まさにこの記事のテーマです。結論から言えば、彼女には限定承認という選択肢が残されていました。順を追って、やさしく解説していきます。
そもそも相続放棄・限定承認・単純承認の違いとは?
亡くなった方(被相続人といいます)の財産を引き継ぐとき、相続人には大きく3つの選び方があります。聞き慣れない言葉が並びますが、ひとつずつ見ていきましょう。
| 選び方 | かんたんに言うと | 借金の扱い | 手続き |
|---|---|---|---|
| 単純承認 | 全部そのまま引き継ぐ | プラスもマイナスも全部背負う | 手続き不要(何もしなければこれになる) |
| 相続放棄 | 最初から相続人でなかったことにする | 借金を一切背負わない | 家庭裁判所へ申述(1人でできる) |
| 限定承認 | プラスの範囲でだけ借金を払う | 受け取る財産を超える借金は払わなくてよい | 家庭裁判所へ申述(相続人全員でする) |
ここで一番気をつけたいのは「単純承認」です。特別な手続きをしないまま3か月が過ぎると、自動的に単純承認をしたとみなされ、借金もそのまま引き継ぐことになります(民法第921条)。「何もしない=安全」ではなく、「何もしない=全部背負う」という点を、まず頭に入れてください。
借金のほうが多いとき――相続放棄という選択
プラスの財産(預貯金・不動産など)よりも、マイナスの財産(借金・連帯保証など)のほうが明らかに多い。そんなときに有力なのが相続放棄です。
相続放棄をすると、法律上「初めから相続人とならなかったものとみなす」という強い効果が生まれます(民法第939条)。借金を引き継がずに済むのが最大のメリットです。
相続放棄の手順
- 亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所を調べる
- 「相続放棄の申述書」を作成する
- 戸籍謄本など必要書類を添えて家庭裁判所へ提出する(郵送も可)
- 後日、裁判所から届く「照会書」に回答する
- 「相続放棄申述受理通知書」を受け取って完了
相続放棄の見落としやすい注意点
ここが、この記事で最もお伝えしたいポイントです。相続放棄をすると、借金から解放される代わりに、不動産・預貯金などプラスの財産も一切受け取れなくなります。 「借金だけ放棄して、実家だけもらう」ということはできません。
Q: 実家は残したいけれど、借金は背負いたくない。両方かなえる方法はありますか? A: 相続放棄では実現できません。次にご紹介する「限定承認」か、あるいは財産で借金を返したうえで残りを引き継ぐ形を検討することになります。
もう一つ大切なのが、相続放棄をすると、相続権が次の順位の人へ移るという点です。たとえばお子さん全員が放棄すると、今度は親や兄弟姉妹へ借金の請求が向かいます。親族間のトラブルを避けるためにも、放棄を検討する段階で、次に相続人になる方へ事前にひと言伝えておくことをおすすめします。黙って放棄して、ある日突然知らない督促状が親戚に届く――そんな事態は、早めの相談で防げます。
借金がいくらあるか分からないとき――限定承認という選択
「プラスとマイナス、どちらが多いか分からない」「あとから知らない借金が出てこないか不安」。そんなときに検討したいのが限定承認です。
限定承認とは、相続で受け取るプラスの財産の範囲内でだけ、借金を引き継ぐ方法です(民法第922条)。たとえば財産が1,000万円、借金が1,500万円だった場合、財産の1,000万円分だけ返済すればよく、残り500万円の借金を自分の財布から払う必要はありません。逆に財産のほうが多ければ、余った分は手元に残ります。「借金がいくらか分からないけれど、損はしたくない」という方に向いた、いわば安全網のような制度です。
限定承認の最大のハードル――相続人全員でする必要がある
ただし、限定承認には大きな条件があります。相続人が複数いる場合、全員が共同で申述しなければなりません(民法第923条)。1人でも反対する人がいたり、連絡が取れない人がいたりすると、原則として限定承認はできません。手続きも相続放棄より複雑で、財産目録の作成や、債権者への公告(官報での告知)などが必要になります。
このため、限定承認は理屈の上では便利でも、実際の利用件数は相続放棄に比べてかなり少ないのが現実です(2026年5月現在)。家族の足並みをそろえる必要があるからこそ、早い段階で全員が集まって話し合い、専門家を交えて進めることが成功のカギになります。
いつまでに決めればいい?――3か月の期限と財産調査
相続放棄も限定承認も、共通して**「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」**に家庭裁判所へ申述しなければなりません(民法第915条第1項)。この期間を「熟慮期間」といいます。
「相続の開始を知った時」とは、多くの場合、亡くなったことと自分が相続人であることの両方を知った時を指します。この3か月は意外とあっという間です。葬儀や各種手続きに追われているうちに過ぎてしまいがちなので、早めの行動が肝心です。
まず「財産調査」で全体像をつかむ
放棄か、限定承認か、それとも単純承認か。正しく選ぶには、プラスの財産とマイナスの財産がそれぞれいくらあるのかを把握する必要があります。これを財産調査といいます。
- プラスの財産:預貯金(通帳・残高証明)、不動産(登記事項証明書・固定資産税の通知書)、株式、生命保険など
- マイナスの財産:借入金(契約書・督促状)、住宅ローン、連帯保証、滞納している税金・家賃など
借金の有無は、信用情報機関(CIC・JICCなど)に開示請求をすると、ある程度まとめて確認できます。督促状や郵便物も大切な手がかりです。
Q: 3か月では財産調査が終わりそうにありません。どうすればいいですか? A: 期限内に家庭裁判所へ「熟慮期間の伸長」を申し立てることで、期間を延ばせる場合があります。間に合わないと感じたら、放置せず早めに専門家へご相談ください。
実は、相続財産の中でも判断を難しくするのが不動産です。家や土地は「分けにくく、すぐに現金化しにくい」ため、「残すか・売るか」「誰が引き継ぐか」で家族の意見が割れやすく、争いの火種になりがちです。こうしたとき、不動産を売ってお金で公平に分ける「換価分割」という方法が、もめない解決策として有力になることがあります。ROCKEDGEでは、相続不動産の査定から売却、提携する税理士・司法書士との連携まで、中立的な立場でワンストップでお手伝いしています。「実家をどうすべきか」「売ったらいくらになるのか」だけでも、判断材料としてお気軽にご相談ください。
後悔しないための判断フローまとめ
最後に、ここまでの内容を「次の一歩」として整理します。
- まず財産調査:プラスとマイナス、どちらが多いかを調べる
- マイナスが明らかに多い → 相続放棄を検討(ただし不動産も手放すことになる点に注意)
- どちらか分からない・あとから借金が怖い → 限定承認を検討(相続人全員の同意が必要)
- プラスが多い → 単純承認(そのまま引き継ぐ)
- 3か月で決められない → 熟慮期間の伸長を家庭裁判所へ申し立てる
借金を相続したくないという思いはとても自然なものです。一方で、相続放棄をすれば大切な実家まで手放すことになる――この見落としだけは避けてほしいと、24年この仕事に携わってきた立場から強く感じます。なお、ここでご紹介した内容は一般的な解説です。相続放棄が認められるかどうかや、限定承認の進め方は、個別の事情により異なります。詳細は弁護士・司法書士などの専門家へご相談ください。
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