この記事でわかること
- マンション売却の税金を計算する順序(譲渡価額 → 取得費・譲渡費用を引く → 所有期間の区分で税率を当てる)
- マンション特有の取得費計算:売買契約書から土地と建物を按分し、建物部分だけに減価償却費相当額を反映させる手順
- 取得費に入るもの(購入時の仲介手数料・登記費用など)と入らないもの(毎月の管理費・修繕積立金など)の切り分け
- 譲渡費用に入れられる支出(売却時の仲介手数料、売主負担の印紙税、賃借人への立退料など)
- 自分で計算するときに間違えやすい3点と、特例を当てる前に「素の数字」を出しておく意味
マンション売却の税金は、譲渡価額から取得費と譲渡費用を引いた譲渡所得に、所有期間の区分(5年超は長期・5年以下は短期)に応じた税率を掛けて計算します。マンションは建物部分に減価償却費相当額を反映させる必要があるため、購入価格をそのまま取得費にすると税額を大きく誤ります(2026年10月現在)。
ROCKEDGE住まい相談室には、「ネットのシミュレーターに購入価格と売却価格を入れたら税金がゼロと出たので安心していたのに、不動産会社から『減価償却を入れると譲渡益が出ます』と言われて混乱している」というご相談が少なくありません。所有期間が長いマンションほど減価償却費相当額が積み上がり、取得費が目減りして譲渡益が出やすくなるためです。ご自分で一度計算の骨格をたどっておくと、どの数字が効いているのかが見えるようになります。
マンション売却の税金はどう計算する?計算の骨格を先に押さえる
国税庁の案内では、土地や建物を売った譲渡所得は次の式で計算します(No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税))。
譲渡所得 = 譲渡価額(収入金額)-(取得費 + 譲渡費用)
この譲渡所得は給与や事業所得と合算せず、分離課税として独立に税率を当てます。順序を言葉にすると次の3ステップです。
- 売却代金(譲渡価額)を確定する
- 取得費と譲渡費用を積み上げて差し引き、譲渡所得を出す
- 所有期間の区分を判定し、対応する税率を掛ける
所有期間の区分と税率
| 区分 | 判定 | 所得税 | 住民税 | 復興特別所得税を含めた合計 |
|---|---|---|---|---|
| 長期譲渡所得 | 売った年の1月1日時点で所有期間が5年超 | 15% | 5% | 20.315% |
| 短期譲渡所得 | 売った年の1月1日時点で所有期間が5年以下 | 30% | 9% | 39.63% |
税率は国税庁 No.3208(長期譲渡所得の税額の計算)および No.3211(短期譲渡所得の税額の計算)に基づきます。復興特別所得税は基準所得税額に2.1%を掛けて計算するため、所得税15%の場合は15×1.021=15.315%、30%の場合は30.63%となり、住民税を足した数値が上表の合計です。
Q: 所有期間は売却日から何年と数えるのですか? A: 取得日から数えますが、ゴールは「売った日」ではなく「売った年の1月1日」です。 たとえば2021年6月に取得して2026年8月に売った場合、実際の保有は5年2か月ですが、2026年1月1日時点では4年7か月なので短期譲渡所得(39.63%)になります。半年の売却時期の違いで税率が約2倍変わるため、ここは必ず確認してください。
マンション特有の取得費計算は?土地と建物を分けて建物だけ減価償却する
一戸建てでも同じ考え方ですが、マンションは売買契約書に「土地(敷地権)」と「建物」の内訳が明記されていないケースが多く、ここでつまずく方が目立ちます。
ステップ1:売買契約書から土地と建物を按分する
まず購入時の売買契約書を手元に出し、土地と建物の価額が区分して記載されているかを確認します。記載があればその金額を使います。記載がなく消費税額のみ書かれている場合は、消費税は建物部分にしか課されないため、記載された消費税額を購入当時の消費税率で割り戻すことで建物価額(税抜)を求め、残額を土地価額とする方法が実務で使われます。契約書そのものが見つからない場合は、按分の根拠から作り直す必要があるため、先に税務署または税理士へ相談してください。
ステップ2:建物部分に減価償却費相当額を反映させる
土地は減価しませんが、建物は時間の経過とともに価値が減るものとして取得費から差し引きます。自宅として使っていた非事業用の建物の場合、国税庁 No.3261(建物の取得費の計算)は次の式を示しています。
減価償却費相当額 = 建物の取得価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数
非業務用建物の償却率は構造ごとに定められています。
| 構造 | 償却率 |
|---|---|
| 鉄筋コンクリート造 | 0.015 |
| 木造 | 0.031 |
| 木骨モルタル | 0.034 |
| 金属造①(骨格材の肉厚3mm以下) | 0.036 |
| 金属造②(骨格材の肉厚3mm超4mm以下) | 0.025 |
分譲マンションの多くは鉄筋コンクリート造または鉄骨鉄筋コンクリート造です。ご自分のマンションの構造は、登記事項証明書や分譲時のパンフレット、管理規約の別表などで確認できます。経過年数の端数の扱いなど細部の取り扱いは、計算前に国税庁の案内(No.3261)で確認してください。
ステップ3:数字を入れて通してみる
条件を仮に次のように置きます(数値はすべて説明用の仮定値です)。
- 2008年3月に鉄筋コンクリート造マンションを4,500万円で購入(契約書の内訳:土地1,800万円/建物2,700万円)
- 購入時の仲介手数料・登記費用など諸費用150万円
- 2026年9月に5,200万円で売却、売却時の仲介手数料・印紙税など180万円
- 経過年数18年として計算
購入時の諸費用も取得費に入りますが、建物に対応する部分は償却の対象になるため、土地40%・建物60%の比率で按分します(土地60万円/建物90万円)。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 土地の取得費(1,800万円+60万円) | 1,860万円 |
| 建物の取得価額(2,700万円+90万円) | 2,790万円 |
| 減価償却費相当額(2,790万×0.9×0.015×18年) | 約678万円 |
| 建物の取得費(2,790万円-678万円) | 約2,112万円 |
| 取得費合計 | 約3,972万円 |
| 譲渡費用 | 180万円 |
| 譲渡所得(5,200万円-3,972万円-180万円) | 約1,048万円 |
| 税額(長期・20.315%) | 約213万円 |
なお、購入時の契約書が見つからず取得費が分からない場合、国税庁 No.3202 は譲渡価額の5%を取得費とする概算取得費の取り扱いを示しています。上の例で5%概算を使うと取得費は260万円にしかならず、税額は大きく膨らみます。契約書を探すこと自体が、そのまま節税のための作業になります。
取得費と譲渡費用には何が入る?入らないものとの境目
取得費になるもの・ならないもの
国税庁 No.3252(取得費となるもの)が挙げている主なものを整理します。
| 取得費に入る | 取得費に入らない |
|---|---|
| 購入代金・建築代金、購入手数料(購入時の仲介手数料) | 毎月の管理費・修繕積立金 |
| 登録免許税(登記費用を含む)、不動産取得税、印紙税 | 毎年の固定資産税・都市計画税 |
| 設備費・改良費(資本的支出となるリフォーム等) | 引越し費用・家具購入費 |
| 土地測量費、所有権確保のための訴訟費用 | 住宅ローンの利子(使用開始後の期間分) |
| 借主立退料、購入契約解除に伴う違約金 | 事業所得などの必要経費に算入されたもの |
誤解が多いのが管理費・修繕積立金です。長期保有だと総額で数百万円に達するため取得費に入れたくなりますが、これは資産の維持・管理のための支出であり、取得費にはなりません。一方で、購入時に支払った仲介手数料と登記費用は取得費に入ります。当時の領収書や精算書を探してください。
なお、土地建物の購入資金に充てた借入金の利子は、その土地建物を使用開始する日までの期間に対応する部分が取得費に含まれる取り扱いです。入居後に支払ったローン利息は含まれません。
譲渡費用に入れられる支出
国税庁 No.3255(譲渡費用となるもの)は「売るために直接かかった費用」に限ると整理しており、主に次のものが挙げられています。
- 売却時に支払った仲介手数料
- 印紙税のうち売主が負担したもの
- 貸していた物件を売るため、賃借人に明け渡してもらう際に支払う立退料
- 土地を売るために上の建物を取り壊したときの取壊し費用と建物の損失額
- すでに売買契約を締結した資産を、さらに有利な条件で売るために支払った違約金
- 借地権を売るときに地主の承諾をもらうために支払った名義書換料
逆に、修繕費や固定資産税といった維持管理のための費用、売却代金の取立てのための費用は譲渡費用になりません。売却を決めてから行ったハウスクリーニングや補修も、維持管理の性質が強いものは認められない可能性があるため、金額が大きい場合は事前に確認しておくのが安全です。
シミュレーションで間違えやすい3点
1. 購入価格をそのまま取得費にしてしまう
取得費は「購入代金+付随費用-減価償却費相当額」です。4,500万円で買って5,200万円で売れた、差は700万円、という引き算だけで判断すると実態とずれます。先の例では譲渡所得が約1,048万円になり、差額の700万円とは300万円以上離れました。
2. 減価償却を忘れる
これが税額への影響が最も大きい誤りです。先の例で減価償却を入れずに計算すると、取得費は4,650万円、譲渡所得は370万円、税額は約75万円です。正しく計算した約213万円との差は約138万円にのぼります。「シミュレーターでは税金が出なかったのに」という食い違いは、ほぼこの項目が原因です。
3. 所有期間の起算日・判定日を取り違える
取得日・譲渡日は、原則として引き渡した日ですが、売買契約の効力発生の日に譲渡があったものとして申告することもできます(国税庁 No.3102 譲渡所得の申告期限)。そして所有期間の5年・10年の判定は、売った年の1月1日時点で行います。「引渡しが年末か年明けか」「契約日で見るか引渡日で見るか」で区分が変わりうるため、売却スケジュールを動かせる段階で検討しておく価値があります。
素の数字を出してから特例を当てる意味と、確認すべき特例
ご自分で計算するときは、控除や特例をいきなり当てないでください。まず特例なしの「素の譲渡所得」を出します。理由は3つあります。第一に、特例の多くは要件を満たさないと使えないため、使えなかった場合の税額を知らないままでは資金計画が立たないこと。第二に、特例は譲渡所得から控除する形が多く、素の数字がないと控除の効果を検証できないこと。第三に、素の数字が分かっていれば、売却時期や売却価額を変えたときの影響を自分で試算できることです。
素の数字が出たあとに確認する主な特例は次のとおりです(いずれも適用要件があります)。
| 特例 | 概要 | 国税庁コード |
|---|---|---|
| 居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除 | 譲渡所得から最高3,000万円を控除。住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までの売却などが要件 | No.3302 |
| マイホームを売ったときの軽減税率の特例 | 売った年の1月1日で所有期間10年超の場合、課税長期譲渡所得6,000万円以下の部分が10%、超える部分は(Aー6,000万円)×15%+600万円 | No.3305 |
| 相続財産を譲渡した場合の取得費加算 | 相続税を納めた財産を一定期間内に売った場合、相続税額の一部を取得費に加算 | No.3267 |
3,000万円特別控除は、売った年の前年・前々年に同じ特例を受けていないこと、親子・夫婦など特別な関係がある人への売却でないことなども要件とされています。軽減税率の特例は所有期間10年超が条件で、土地と家屋の双方について判定します。
ROCKEDGE住まい相談室では、売却のご相談をお受けする際に、売買契約書の内訳や購入時の精算書が残っているかを最初に確認しています。手元に書類が揃うかどうかで取得費が数千万円単位で変わり、売り出し価格や売却時期の判断そのものが変わるためです。書類の有無が分からない段階でも、どこを探せばよいかを含めてご相談いただけます。
最後に、ここに示した計算はご自身で全体像をつかむためのものです。按分の方法、経過年数の端数処理、特例の併用可否、相続で取得した場合の取得日の引き継ぎなどは、個別の事情により結論が変わります。ご自分で出した数字は、確定申告の前に必ず税理士または所轄の税務署で裏取りしてください。譲渡所得の申告は、資産を譲渡した日の属する年の翌年2月16日から3月15日までの間に行うこととされています(2026年10月現在)。
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