空室が1か月なら様子見、2か月なら気になり、3か月を超えると不安になります。このときオーナーが最初に検討しがちなのが賃料の値下げですが、順番が逆になっていることが少なくありません。
賃料を1万円下げれば、その部屋の年間収入は12万円減ります。さらに収益物件の価格は賃料収入から逆算されるため、将来売却するときの評価にも効いてきます。一度下げた賃料を次の募集で戻すのは簡単ではありません。
値下げの前に、管理会社へ確認すべきことが5つあります。
1. 募集は、どこに出ていますか
まず確認するのは、募集情報が自社の中だけで止まっていないかです。
意外に思われるかもしれませんが、賃貸の募集には法律上のレインズ登録義務がありません。宅地建物取引業法第34条の2第1項は「宅地又は建物の売買又は交換の媒介の契約」について定めた条文で、貸借(賃貸)の媒介は条文の対象に含まれていません。売買の専任媒介で求められる7営業日以内の登録といったルールは、賃貸には適用されないということです。
つまり、募集が他社に共有されているかどうかは、管理会社の運用方針次第です。だからこそ、次を具体的に聞いてください。
- どのポータルサイトに、いつから掲載しているか
- 他社(客付け業者)へ何社に情報を流しているか
- 広告料(AD)の設定はいくらか、それを他社に告知しているか
掲載サイト名が即答できない、あるいは自社サイトだけで完結している場合、露出の量そのものが不足している可能性があります。
2. 問い合わせは何件、内見は何件ありましたか
空室が埋まらない理由は、大きく2つに分かれます。
問い合わせがそもそも来ていない場合は、募集条件か露出の問題です。賃料、敷金・礼金、初期費用の総額、ペットや楽器の可否、保証会社の指定、これらのどこかが周辺の競合とずれています。
問い合わせはあるが内見に至らない場合は、写真と間取図の問題であることが多いです。
内見はあるのに決まらない場合は、室内の状態か、現地で提示される初期費用の問題です。
この3つは打ち手がまったく違います。分母の数字がないまま賃料を下げても、原因が別のところにあれば空室は続きます。数字を出してもらうところからです。
3. 掲載中の写真と間取図を、いま見せてもらえますか
入居希望者は、部屋を見る前にスマートフォンの画面で候補から外します。落ちているのは現地ではなく、その手前です。
- 写真は明るく撮れているか。日中に照明を点けて撮っているか
- 枚数は十分か。水回り、収納の中、バルコニーからの眺望まで載っているか
- 間取図に方位、収納、設備が記載されているか
- 動画やバーチャルツアーがあるか
遠方からの転勤者や、日中に内見の時間が取れない人にとっては、画面上で部屋の中を歩けるかどうかが候補に残す基準になります。当社ではMatterportによる3Dバーチャルツアーの撮影を自社で行っており、募集図面に加えて公開できます。
4. 原状回復は終わっていますか。設備は動きますか
案内できない部屋は、募集していないのと同じです。
- 前の入居者の退去後、原状回復工事は完了しているか
- エアコン、給湯器、コンロは動作確認済みか
- 残置物は撤去されているか
- 鍵の引き渡し方法は決まっているか(現地キーボックスか、来店必須か)
客付け業者から見ると、鍵を借りるために来店が必要な物件は案内の手間が増えます。手間の少ない物件から先に案内されるのが実務です。
原状回復の考え方は原状回復をめぐるトラブルとガイドラインにまとめています。
2026年は「工事が終わらない」理由を切り分ける
2026年に入ってから、原状回復の遅れに外部要因が加わりました。中東情勢を背景としたナフサ(石油化学製品の原料)の供給不足で、石油由来の建材の調達が不安定になっています。影響が指摘されている品目には、断熱材(発泡ウレタン、押出法ポリスチレンフォーム)、防水シート、塩化ビニル管、電気配線の被覆材、塗料があります。賃貸の原状回復で使う壁紙やクッションフロアも、同じ塩化ビニル系の建材です。
日本経済新聞は、大手ハウスメーカーの受注がおおむね好調な一方、中小工務店は資材の調達難に加え、住宅の設計・申請手続きの厳格化が重荷となり、倒産・休廃業が増えていると報じています。手続きの厳格化の背景には、2025年4月に施行された建築基準法・建築物省エネ法の改正(省エネ基準の適合義務化と、いわゆる4号特例の縮小)があります。
ここで大切なのは、遅れの理由を切り分けることです。「資材が入らない」は本当のこともあれば、発注が出ていないだけのこともあります。次の3つを聞いてください。
- 工事の発注はいつ出したか(発注書の日付)
- 入らない材料は具体的に何か。同等品での施工は検討したか
- 同等品に切り替える場合、着工はいつになるか
発注そのものが出ていなければ、資材は理由になりません。逆に本当に入らないのであれば、同等品に切り替えて着工を早める判断ができます。
あわせて、原状回復を発注している施工業者が何社あるかも聞いておいてください。1社にしか出していない管理会社は、その1社が受注を止めた時点で工事が止まります。中小工務店の休廃業が増えている局面では、ここが空室期間の長さに直結します。
5. 報告は、どういう頻度で届いていますか
ここまでの4つを聞いてみて、回答が出てくるまでに何日かかったか。それ自体が5つ目の確認項目です。
国土交通省の賃貸住宅標準管理委託契約書では、管理業務の報告について定めが置かれています。お手元の管理委託契約書にも、報告の内容と頻度に関する条項があるはずです。まずそこを読んでください。
報告は法律上の義務でもあります。賃貸住宅管理業法第20条は委託者への定期報告を管理業者に義務づけており、国土交通省の立入検査では、報告する事項がないオーナーへの報告省略も指摘の対象になっています。契約書のどこを見ればよいかは「管理委託契約書に法定記載事項は入っていますか」にまとめました。
契約書に書かれた報告が実際には届いていない、あるいは聞かなければ何も出てこない状態が続いているのであれば、空室は原因ではなく結果です。
それでも動かないとき
賃貸経営3年以上のオーナーを対象にした調査では、管理会社に不満を感じている人が61.1%、不満の理由で最も多いのが「メールの返信が遅い」で44.7%でした(アセットテクノロジー株式会社「賃貸管理会社の対応品質に関する実態調査」、オーナーズ・スタイル掲載記事。調査時期・回答者数は出典に記載がありません)。
不満を持っているオーナーは多数派です。それでも切り替えが進まないのは、解約予告期間や引き継ぎの手順が分からないからです。その手順は賃貸管理を任せたいオーナーの相談窓口に、契約書のどこを読むかから順番に書いています。