この記事でわかること
- 賃貸に最初から付いているエアコンが壊れたとき、修理費は原則として貸主(大家さん)の負担になること(民法606条1項)
- 借主(入居者)の使い方が原因のときは、例外として借主が負担することがあること
- 連絡しても直してもらえないとき、借主が自分で修理を手配できる条件(民法607条の2)
- エアコンが使えない間、家賃が減額される可能性があること(民法611条1項)
- 前の入居者が置いていったエアコン(残置物)だと結論が変わる場合があり、契約書のどこを見ればよいか
- 猛暑のなかで今日すぐ取るべき連絡の順番と、記録の残し方
結論を先にお伝えします。 賃貸のエアコンが夏に壊れた場合、そのエアコンが物件の設備として最初から付いていたものであれば、修理費は原則として貸主の負担です(民法606条1項)。ただし借主の責めに帰すべき事由がある場合や、残置物・特約がある場合は例外となります。
ROCKEDGE住まい相談室に寄せられたご相談から
ROCKEDGE住まい相談室には、「猛暑日にエアコンが動かなくなり、その日のうちに家電量販店へ修理を依頼してしまった。後から管理会社に請求したら『事前の承諾がないので払えない』と言われた」というご相談が少なくありません。慌ててご自身で手配してしまうケースは、夏場のご相談として特に多いものです。
このとき問題になったのは「誰が負担すべきか」ではなく「手順を踏んだか」でした。設備であれば負担は貸主が原則ですが、承諾なく手配した費用の精算は交渉になりやすく、話がこじれます。逆に言えば、連絡と記録の順番さえ守れば、多くのケースは平穏に解決します。この記事では、その順番を最初に示したうえで、根拠となる条文を説明します。
エアコンが止まった日にまず何をすればいい?
暑さは命に関わります。まずは体を守りながら、同時に連絡を進めてください。
手順1:健康を守る応急対応(最優先)
- 扇風機やサーキュレーター、保冷剤、冷水シャワーで体温を下げる
- 高齢者・乳幼児・持病のある方がいる家庭では、無理をせず涼しい場所(公共施設・親族宅など)への一時避難も検討する
- 水分と塩分をこまめに取る
厚生労働省・環境省は熱中症対策として、室温を28℃を目安に管理し、我慢せず冷房を使うことを呼びかけています(2026年7月現在)。エアコンが使えない状況は、単なる不便ではなく健康リスクとして扱ってください。
手順2:管理会社(または貸主)へ連絡する
契約書に記載された管理会社の連絡先へ、できるだけ早く連絡します。夜間・休日で電話がつながらない場合も、メールやWebフォーム、LINEなど記録が残る手段で第一報を入れておくことが重要です。
「いつ連絡したか」が後の判断(減額の起算点や修繕義務の履行遅れ)に影響するためです。
手順3:症状と日時を記録する
伝える内容と、手元に残す記録をそろえます。
| 記録すること | 具体例 |
|---|---|
| 発生日時 | 「2026年7月28日 14時頃から冷風が出なくなった」 |
| 症状 | 「電源は入るが送風のみ」「異音がする」「水漏れ」「エラー表示 E1」 |
| 型番・製造年 | 室内機の側面・前面パネル内のシールを撮影 |
| 室温 | 温度計やスマホアプリの表示を撮影 |
| 連絡履歴 | 電話した日時・担当者名、メールの送信控え |
写真と動画は、その場で撮っておくと後から再現できません。撮れるうちに撮るのが鉄則です。
手順4:勝手に手配せず、承諾を得る
修理業者の手配は、原則として貸主・管理会社の指示を待ってください。貸主には提携業者があることが多く、独自に手配すると費用の精算でもめる原因になります。
ただし、連絡しても対応されない場合の例外的な手段は法律で定められています(後述の民法607条の2)。
修理費は貸主と借主どちらの負担?(民法606条)
原則:貸主に修繕義務がある
民法606条1項は、賃貸人(貸主)の修繕義務について次のように定めています。
賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
つまり、物件に最初から設置されている設備(=貸主の所有物)は、貸主が直す義務を負うのが原則です。エアコンが「設備」として契約書や重要事項説明書に記載されていれば、経年劣化による故障の修理費・交換費は貸主負担になります。
Q: 入居して3年目にエアコンが壊れました。長く使ったから自分の負担ですか? A: いいえ。使用年数が長いこと自体は借主の責任ではありません。 通常の使用による劣化(経年劣化)は、貸主が負担する修繕の典型です。
例外:借主の「責めに帰すべき事由」があるとき
民法606条1項ただし書のとおり、借主に落ち度がある場合は借主負担となり得ます。たとえば次のようなケースです。
- 室内機・室外機を物にぶつけて破損させた
- 掃除やフィルター清掃を著しく怠り、それが直接の原因で故障した
- 取扱説明書に反する使い方をした(無理な改造、DIYでの分解など)
一方で、フィルターを普通に掃除していたのに壊れた、10年以上前の機種が寿命を迎えたといったものは借主の落ち度とは言えません。
「責めに帰すべき事由」があるかどうかは、原状回復をめぐるトラブル全般と同じく、通常の使用の範囲かどうかで判断されます。国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」は、通常損耗・経年変化は貸主負担という考え方を示しており、設備の故障を考えるうえでも参考になります。
借主にも「通知義務」がある(民法615条)
民法615条は、賃借物が修繕を要するときは、借主は遅滞なくその旨を貸主に通知しなければならないと定めています(貸主が既に知っている場合を除く)。
つまり、黙って我慢し続けることは、借主側にとっても不利になり得ます。故障に気づいたら早めに伝えることが、双方にとって正しい進め方です。
連絡しても直してくれないときはどうする?(民法607条の2)
2020年4月1日に施行された改正民法により、借主が自ら修繕できる場合が明文化されました。民法607条の2は、次のいずれかのときに借主がその修繕をすることができると定めています。
- 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、または賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき
- 急迫の事情があるとき
「相当の期間」とはどれくらい?
条文に具体的な日数の定めはありません。何が「相当」かは、故障の内容・季節・代替手段の有無などから個別に判断されます(2026年7月現在)。
猛暑期のエアコン故障は、健康被害のリスクがあるため、他の設備の不具合より短い期間で判断されやすい性質があると考えられます。ただし「何日過ぎたから自動的にOK」という基準はありません。
自分で修理する前に必ずやること
民法607条の2に沿って動く場合でも、次の順番を守ってください。
- 「◯月◯日までに修理の予定をご連絡ください」と期限を明示して書面(メール可)で再度通知する
- その通知と、返答がなかった事実を保存する
- 修理を手配する場合は、複数社の見積を取り、金額の妥当性を残す
- 領収書・作業報告書を保管する
費用は、支出した必要費として直ちに貸主へ償還を請求できるのが原則です(民法608条1項)。ただし請求できる範囲は「必要な修繕」に限られるため、独断で高性能な機種へ交換した差額などは認められないおそれがあります。
注意: 「連絡がつかないからすぐ買い替えた」は最もこじれる進め方です。急迫の事情があると判断できる場面でも、記録を残す努力は続けてください。
エアコンが使えない間、家賃は減額される?(民法611条)
民法611条1項は、次のように定めています。
賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。
2020年4月1日施行の改正により、従来の「減額を請求することができる」から「減額される」という規定に変わりました。つまり、要件を満たせば当然に減額される建て付けです。
実際にはどう決まる?
条文には減額割合の具体的な数値はありません。実務では、以下を踏まえて当事者間の協議で決められることが一般的です(2026年7月現在)。
| 判断材料 | 考え方 |
|---|---|
| 使えない設備の重要度 | 夏のエアコンは生活への影響が大きい |
| 使えない期間 | 通知した日から復旧日までが目安になりやすい |
| 代替手段の有無 | 他の部屋のエアコンが使えるか、貸主が代替機を用意したか |
| 借主の責任の有無 | 借主に落ち度があれば減額されない |
貸主側が扇風機や代替のエアコンを速やかに用意した場合は、減額の必要性が下がると考えられます。減額を主張する場合も、まずは復旧を求めるのが先です。
Q: 減額は自分で勝手に差し引いてよいですか? A: おすすめしません。 一方的に家賃を減額して振り込むと、賃料不払いと受け取られ、関係が悪化するおそれがあります。必ず書面で協議を申し入れ、合意内容を残してください。
「残置物」だと結論が変わる?契約書のどこを見る
残置物とは
残置物(ざんちぶつ) とは、前の入居者が退去時に置いていった物のことです。エアコン・照明・カーテンレール・食器棚などが典型です。
貸主が「設備」として引き継いだのではなく、「あるけれど貸主の設備ではない」という扱いにしている場合、貸主の修繕義務の対象外とされることがあります。この場合、故障しても貸主が直す義務を負わず、撤去のみ対応、あるいは借主が自費で交換する取り扱いになることがあります。
契約書のどこを確認すればいい?
以下の書類の、以下の箇所を見てください。
| 書類 | 見る場所 | チェックポイント |
|---|---|---|
| 賃貸借契約書 | 設備一覧・物件目録 | エアコンが「設備」欄にあるか、「残置物」「無償貸与」「現状有姿」と書かれていないか |
| 賃貸借契約書 | 修繕に関する条項・特約欄 | 「小修繕は賃借人負担」等の記載と、その金額上限(例:1万円未満) |
| 重要事項説明書 | 設備の整備状況 | エアコンの「有・無」チェック、備考欄の記載 |
| 入居時のチェックシート | 設備の状態記録 | 入居時点で不具合の申告があったか |
「設備」と書かれていれば貸主の所有物として扱われるのが通常です。「残置物」「無償貸与」と明記されている場合は、その条件に従うことになります。
特約はどこまで有効?
「エアコンの修理費は借主負担とする」といった特約が設けられていることもあります。ただし、特約が常に有効とは限りません。国土交通省のガイドラインは、借主に通常の原状回復義務を超える負担を求める特約について、①客観的・合理的な必要性があること、②借主が特約の内容を認識していること、③借主が義務負担の意思表示をしていることを要件として挙げています。
また消費者契約法10条は、消費者の利益を一方的に害する条項を無効とする規定を置いています。特約があるからといって、直ちに諦める必要はありません。
貸主・オーナー側が取るべき対応
この記事は借主側の視点が中心ですが、貸主・管理側の判断も整理しておきます。
夏のエアコン故障は「スピード」が最大の防御
- 連絡を受けたら、当日中に一次回答を返す(修理業者の手配状況を伝えるだけでも意味があります)
- 復旧に日数がかかる場合、代替の冷風機・扇風機の貸与を検討する。減額協議の材料にもなります
- 修理か交換かの判断が遅れるほど、減額対象期間が伸びます
事前にやっておくと揉めにくいこと
- 設備一覧に、設置年・型番・「設備/残置物」の区分を明記しておく
- 残置物として引き継ぐ場合、契約書に取り扱い(故障時は撤去のみ等)を明記し、入居時に説明する
- 製造から10年以上経過した機種は、繁忙期前(5〜6月)に点検・計画的な入替を検討する
ROCKEDGE住まい相談室では、入居者の方からのご相談だけでなく、貸主・オーナー様からの「この場合どこまで負担すべきか」「特約の書き方をどうするか」といったご相談にも対応しています。判断に迷う段階でご相談いただくほど、選べる選択肢は多くなります。
まとめ:夏のエアコン故障で押さえる5点
- 原則は貸主負担。設備として設置されたエアコンの経年劣化による故障は、貸主が修繕義務を負います(民法606条1項)
- 借主に落ち度があれば例外。破損・著しい管理不足は借主負担となり得ます
- 黙って我慢しない。借主には遅滞なく通知する義務があります(民法615条)
- 直してもらえないときの手段がある。通知後に相当の期間内に修繕されないとき、または急迫の事情があるときは、借主が修繕できます(民法607条の2)
- 使えない期間の賃料は減額され得る(民法611条1項)。ただし一方的な差引きではなく、協議と記録を
そして最も大切なのは、連絡と記録を先に、手配を後にという順番です。これだけで、多くのトラブルは避けられます。
なお、エアコンが設備か残置物か、特約が有効かどうかは、契約書の文言と個別の事情によって結論が変わります。ここで示したのは法律とガイドラインが定める一般的な考え方であり、実際の判断は事案ごとに異なるため、詳細は弁護士・自治体の住宅相談窓口・宅地建物取引業者などの専門家へご相談ください。
賃貸のお悩みはROCKEDGEの無料相談へ
ROCKEDGEでは賃貸に関するご相談を承っています。「何から手をつければいいか分からない」という段階からお気軽にご連絡ください。数多くの相談に対応してきた知見をもとに、あなたの状況に合った選択肢を中立的な立場でご提案します。
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